パルマハムをめぐる土地と食との蜜月関係

(Photo by David Silverman/Getty Images)


PDOやGI商品にはストーリーがある

近年、日本でも似たような制度を取り入れはじめた。地理的表示(GI)保護制度というものだ。これには夕張メロンや神戸ビーフ、八丁味噌など58の産品が登録されている(2017年12月15日現在)。パルマハムは、このリストの中で唯一の外国産品として登録されている。

パルマハムの歴史を紐解けばわかるように、PDOやGIに認定された商品には、ひとつひとつそれぞれに、脈々と受け継がれてきた伝統や人々のストーリーがある。それは決して「偽物」にはつくれないものだ。そのような目に見えない価値を守り、また我々に教えてくれるのもPDOでありGIなのである。


(Photo by David Silverman/Getty Images)

もちろん、これらの制度があろうがなかろうが、どんな商品を選ぶかを決めるのは消費者だ。その判断材料や選択肢を広げるための情報はあちこちに溢れている。情報過多の現代社会だからこそ、我々消費者は自分なりの基準を持って商品を選ぶことが大切なのではないか。

シアトルのコーヒーを無条件にありがたがって飲んでいるうちは、物事の本当の価値はわからないと思う。牛丼は吉野家でしか食べないという人にもそれなりの哲学がある。何を選ぶにしても、自分なりの価値観と責任を持つのが、現代に生きる我々に必要なことなのではないか。そしてその積み重ねが、毎日の生活をわずかばかりでも豊かにしてくれるような気がする。

あるフランス人は、「都会で生ゴミを食べている鳩より、田舎で育った鳩のほうがうまい」という。築地のウニ業者によれば、本州のウニはワカメを食べて育つが、北海道のウニは昆布を食べて育つそうだ。だから北海道のウニはうまいらしい。パルマハムの豚だって、よい餌を食べているから美味しいパルマハムになる。何を口にするかで、そのものの価値や中身が変わるのは、もしかしたら人間も同じなのではないか。

「美味礼讃」を著したフランスの美食家、ブリア=サヴァランはこのような言葉を残している。

「あなたが食べているものはなんですか。それを聞けば、あなたがどんな人かわかります。」

食を通して自分の人間性も見られていると思ったら、気軽に「つゆだく」も頼めなくなってしまいそうである。まあ、その辺は自分を甘やかしつつ、何事においても納得のいく選択を続けていきたいと思う。

文=鍵和田 昇

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