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即断即決、集中投資

14年のフェイスブックによるオキュラスVRの買収劇。このとき、オキュラスVRに早期に注目しながら大きなシェアを握っていなかったことを後悔したシンガーマンは、以降、投資のアプローチを変える。オルトスクールでは複数の出資ラウンドを主導。初期のラウンドで出資しそこねたクライメート・コーポレーションでは、シリーズCの出資に邁進し、同社内部の人間から持ち分を買い取ってポジションの最大化を図った。これはいまでは、彼が毎度のごとく用いている戦略だ。

シンガーマンの果敢な投資手法を体現しているのは、なんといってもステムセントルクスの案件だろう。11年後半、彼は各種のガン治療に関するバイオテクノロジーについて下調べを済ませた上で、自宅近くのコーヒーショップに同社の共同創業者兼CEOのブライアン・スリンガーランドを呼んだ。短いやり取りのあと、彼はスリンガーランドに、その晩のすべての予定をキャンセルして、ティールの自宅で開かれるパーティーに来るよう説いた。その日が結婚1周年の記念日だったスリンガーランドは一度は躊躇したものの、すぐにこの機会の重要性を理解する。そして妻をロマンチックなディナーに連れ出すかわりに、シンガーマンやティールらと顔を付き合わせ、ガンを成長させる幹細胞について語り明かしたのだった。

当時、バイオ技術に大金を投じるつもりだとシンガーマンが言うと、誰もがファウンダーズ・ファンドお得意の奇行だと笑った。元ハリウッドの代理人で、アンドリーセンやティールら投資家とも親しいマイケル・オービッツは、「クスリでもやってるのか、と聞いちゃったよ」と笑う。だが彼もまた、結局はステムセントルクスへの投資に乗るのである。

14年、シンガーマンはステムセントルクスの持ち分をさらに増やすため、次の投資ラウンドを主導した。同社の薬剤のひとつに明るい見込みが出てきたタイミングだった。社内の人間からも買えるだけの株を買い取った。彼は夜も週末もサンフランシスコ南部にあるステムセントルクスの本社で過ごした。そこでは常にステムセントルクスのオリジナルTシャツを着ていたのだが、その脇の下がほつれ始めたほどだ。

アッヴィとの交渉が始まり、創業者たちが会社を売るかどうか議論しているとき、シンガーマンはいつものことながら、どちらにしろとも言わなかった。「彼はすべての選択肢を考えるための手助けをしてくれた」と、CEOのスリンガーランドは振り返る。「そして言うんだ。『君たちが創業者だろ』って」。シンガーマンはこんな言葉で煙に巻く。

「何を言わんとしたのかって? 早くガンの治療法を見つけろってことだよ」



ブライアン・シンガーマン◎40歳、サンフランシスコ生まれ。スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを学び、1999年卒業。グーグルのエンジニアとしてiGoogleの開発をしながらエンジェル投資を始める。2008年よりファウンダーズ・ファンド参画、現パートナー。オキュラスVR、ミスフィット、クライメート・コーポレーションへの初期投資で知られる。

文=アレックス・コンラッド 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

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