新宿「どん底」で「ビリギャル」著者に聞く、教育底上げ論

『ビリギャル』の作者にして「坪田塾」塾長、坪田信貴氏。


坪田さんは疑問に思ったことに対して仮説を立て、どうすればうまくいくか試してみる。実際にやってみて結果が出たことを、子どもたちとの対話や授業に反映しながら、教育の底上げに取り組む。

「あるとき、私は授業時間中に先生が生徒の目を見ながら話すことで、内容の理解度が高まり、成績が伸びるのではないかという仮説をもちました。そこで、実際に先生たちがどれくらいの時間子どもたちの顔を見ているのか、ストップウォッチで計ってみたのです。すると、平均して全授業時間の8%程度でした。それを踏まえ、先生たちから子どもたちに意識して目線を送る時間を増やしてもらうと、子どもたちのテストの平均点がアップし、そこに相関性があることを確かめることができました。それ以来、先生たちには『目標を全体の50%にしましょう!』というように、具体的な目標を伝えるようにしているのです」

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「感動」という言葉があっても「理動」という言葉がないように、人の心を動かすのは「感性」である。しかし、学びを飛躍させるには「理性」が必要だ。「理性」と「感性」を融合して人の人生をサポートするのが坪田さんおライフワークだと言う。

いつだって人は変われる

お酒が進み、会話が弾んできた頃、ふと思った。高校時代に成功体験を得ることができれば、その後の人生にも自信がつくのは納得できる。確かに、人が目覚めて変わるには、早いに越したことはないだろう。しかし、大人になってしまったら、人はそうそう変わることができないのだろうか。坪田さんに素朴な疑問をぶつけてみた。

「よくぞ聞いてくださいました。まず、私は科学的アプローチで『できが悪い』『勉強ができない』と言われている子どもたちの成績を上げ、難関大学に合格させる教育実験にチャレンジした結果、これまでお話ししてきたような成果を得ることができました。すると今度は、子どもたちだけでなく、教える『先生』の方も成長させられないかと思うようになったのです」

坪田さんはあえて、他の塾に落ち続けた“大人版落ちこぼれ”を受け入れる。採用後、先生たちに対して「将来リーダーになりたいか」と聞き、10人中9人が手を挙げた中、1人だけ挙手しなかった無気力なポンコツ先生を選び、先に紹介した科学的アプローチで“できる先生”にする実験に取り組んだという。

「その結果、彼は今や私の右腕になっています。入塾当初不登校だったさやかちゃんの妹を難関の上智大学に合格させた立役者でもあるのですが、これまで私がやっていたことのほとんどすべてができるようになり、彼のおかげで坪田が不在でも塾の運営がうまくいくようになっています」

人はいつでも変われる。希望的観測を語るのは簡単だ。しかし、実証実験を重ねて来た坪田さんの言葉には、圧倒的な説得力がある。その気になり、やり方を間違えなければ、人はいつだってやり直せる。坪田さんのここまでの実績が、そう勇気づけてくれるように思う。

「自分はダメだ」と決めつけていた人に、「自分にもできるんだ」という体験をして、自信と笑顔に満ちた生活を送ってもらいたい。そんな坪田さんの将来への思いを聞いていたら、もっと飲みたくなった。



そして、ぼくたちは敏腕の元ポンコツ先生とさやちゃんの妹と合流し、二件目お店に流れていった。


坪田信貴◎坪田塾塾長。累計120万部突破の書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』や累計10万部突破の書籍『人間は9タイプ』の著者。これまでに1300人以上の子どもたちを子別指導し、心理学を駆使した学習法により、多くの生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。大企業の人材育成コンサルタント等もつとめ、起業家・経営者としての顔も持つ。テレビ・ラジオ等でも活躍中。全国で開かれている講演会には、15万人以上の人が参加している。新著に『バクノビ —子どもの底力を圧倒的に引き出す339の言葉』がある。

編集・写真=川下和彦

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