Qシステムにアクセスできる「Q Network」には、ダイムラーやJPモルガン、サムスンなどが参加する。IBMはまた、テネシー州にあるオークリッジ国立研究所やオックスフォード大学、慶應義塾大学、オーストラリアのメルボルン大学などの大学や研究機関に研究開発拠点を設置する。
IBMが先月発表していた通り、Q Networkのパートナー企業は、IBMの20キュービット(量子ビット)を備えた量子コンピューターを利用することができる。同社は既に50キュービットのプロトタイプを開発しており、パートナー企業は今後より高性能な量子コンピューターにアクセスすることができるという。
「我々は、これまで長年に渡って量子コンピューターの研究をしてきたが、今後の目標は商業化を図ることだ」とIBM ResearchでAI and IBM Q担当バイスプレジデントのダリオ・ギル(Dario Gil)は話す。
IBMは、パートナー企業が量子コンピューターを利用し、従来型のコンピューターよりもパフォーマンスの高いアプリケーションを開発することを目指している。ギルは、量子コンピューターの技術はまだ黎明期にあるが、2020年までには成果を出したいとしている。
一方、JPモルガンなどのパートナー企業は、最先端の量子コンピューティング技術にアクセスすることを重視しており、本格的なアプリケーションをすぐに開発できなくても良いと考えている。彼らは、ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツにあるIBMの研究所にエンジニアを派遣し、定期的に研究成果を本社に持ち帰るほか、クラウドを介して遠隔から実験を行う予定だ。
日立金属、本田技研も参加
「我々にとっての成功は、特定のプロダクトやアプリケーションを開発することではなく、量子コンピューティングに今後どう対応していくかをよく理解することだ」とJPモルガンの投資銀行部門でマネージングディレクターを務めるRobert Stolteは話す。Stolteは、Q Networkにコミットしており、「パートナーとともに調査を行っていく」と述べている。
今後開発されるアプリケーションによって、より精緻なリスク分析やファイナンス分野における迅速な価格算定が可能になり、新素材の開発や物流機能の向上などへの活用が期待される。しかし、これらを実現するためには、量子コンピューター上でアルゴリズムを走らせる方法を学習する必要がある。今回のプログラムには、ほかにバークレイズや日立金属、本田技術研究所、JSR、長瀬産業などが参加している。
IBMによると、これまでにQシステムへのオンラインアクセスを通じて6万人以上のユーザーが170万回を超える量子実験を行い、35を超えるサード・パーティーの研究論文が作成されたという。
「我々のパートナーは、量子コンピューターが一過性のブームではなく、今後一般化が進むと考えている。彼らは、この新しいテクノロジーを信じ、真っ先に導入をしたいと考えている」とギルは話す。