トスカーナ流ワイン生産に学ぶ、仕事と人生で大切なこと

トスカーナのブドウ畑(Photo by Tim Graham/Getty Images)

2人として同じリーダーはいない。共通の性格やビジネス戦略、朝の習慣を持つ人はいても、成功を収めるリーダーには皆、それぞれを他と隔てる特徴がある。

自分と他者を差別化する点を大切にすれば、自分に一番合ったリーダーシップのスタイルを形作れ、最終的には成功につながる。私は本稿を含むシリーズ記事を通してさまざまな業界での成功者を取材し、その事業理念や失敗への対処法、創造的なプロセスを成功させる秘訣(ひけつ)を探ることにした。

シリーズ初回となる今回の記事で取材したのは、イタリア・トスカーナ州サンジミニャーノでワイナリー「テヌータ・トルチアーノ」を経営するピエルルイージ・ジャキだ。1720年創業の同ワイナリーは、ジャキ家が15代にわたって受け継いできた。家業を継いだジャキは、かつて5人の従業員で年間5000本のワインを製造してきた会社を、50人の従業員で年間70万本以上製造する規模まで成長させた。

ジャキが会社を成長させるために新たに採用したのが、顧客直結型のビジネスモデルだ。彼はある米国人の事業家から、仲介業者を通さずに商品をできる限り迅速に顧客に届けるようにとの助言を受けた。30年前としては大きな賭けだ。インターネットの登場でこうしたビジネスモデルがより簡単になる前のことだった。

しかしジャキは意を決し、イタリアで初めて顧客に直接ワインを売るワイン生産者になった。この決断によりジャキは、今までの伝統や品質に忠実でありつつビジネスを成功させることができた。その彼に、自身の事業理念や、伝統と新技術のバランスの取り方、自身の事業に深く根付くトスカーナ流の生き方を聞いた。

家族第一の精神

テヌータ・トルチアーノ・ワイナリーの中核には家族がある。同社がこれほど大きな成功を収めたのも、そのおかげだ。ワイナリーではジャキ家のメンバーが25人ほど雇用され、ジャキは妻のルチアーナや息子のエマヌエレと協力して仕事を行う。「15世代前、この事業を作り出してくれた家族がいなければ今の私たちはない」とジャキ。「このワイナリーが家族の血に深くしみこんでいることが、私たちの素晴らしい土地や商品を世界に共有したいという私の願望と情熱の原動力となっている」

しかし、ワイナリーが開業した300年前からは多くが変化した。現代ではワイン生産用の機械や道具が存在するが、ジャキは伝統的なワイン作りが生む価値と品質を承知しており、今も創業時とほぼ同じ手法を採用し続けている。例えば、ぶどうはいまだに慎重に手で収穫しているし、地下貯蔵庫の中でぶどうが発酵するのに十分な時間を取っている。「古代の技が、同じ歴史的プロセスの中に今でも深く根付いている」とジャキは語る。
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編集=遠藤宗生

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