タイガーが変えたこと
そんな構図を俯瞰してみると、PGAの大会運営で最も欠かせないのは、やはり主役のスター選手の存在だろう。彼らはPGAツアーのどこに惹かれるのか?
マクラフリンによると、それは世界でも指折りのコース、きちんとオーガナイズされたトーナメント運営、そして魅力的な賞金の3つだという。世界一流のゴルフスターは、またプロでもある。賞金獲得を巡ってしのぎを削る彼らの戦い方は、時代と共に大きく変わってきている。
「昔は、才能と精神力、記憶力の3つが他者に差をつけるポイントでした。ところが1996年、タイガー・ウッズの登場で大きく変わりました。彼の恐ろしいほどの闘争心や、野性のようなプレースタイルがゴルフというスポーツを一変させたのです」
一方で、アフリカ系アメリカ人の躍進は、PGAに民族的な多様性を生み出した。
「そこに目をつけたのがナイキです。新たに立ち上げたゴルフ部門は、大規模なプロモーションを背景に急成長した。タイガーのおかげでPGAは資金が豊富になりました。彼は間違いなくPGAに史上最大のインパクトをもたらしたといえるでしょう」
だが、そうしたタイガーのスタイルも、今では通用しなくなってきている。
「ゴルフボールとクラブが重要になってきた」とマクラフリンは笑う。
「テクノロジーが急速に進化し、それらをいかに使いこなすかが問われている」と言うのだ。実際、「PGA会員の50代のプロは、彼ら自身が30代のときよりも遠くに飛ばすのです」。
アメリカのゴルフ人口は2500万人。紳士のスポーツを標榜し、社会貢献活動も活発である。年間20億ドルを寄付し、それはアメリカ4大スポーツの合計よりも多い額となっている。前述した通り、賞金総額は3億ドルである。途方もないマネーがうごめく世界だが、マクラフリンが重要だと指摘する「ボール」の市場規模も、これまた年間10億ドルに達するという。
そんな彼に、最後にゴルフがうまくなるコツを聞いてみた。すると、こんな答えが返ってきたのだった。
「たくさん練習し、たくさんコースに出れば誰でもうまくなります。ただそれには、かなりの量のゴルフボールを使うことになりますけどね」
GREG MCLAUGHLIN(グレッグ・マクラフリン)◎1983年オハイオ州立大学卒業、99年シカゴ=ケント・カレッジ・オブ・ロー・アット・イリノイ工科大学卒業。92年PGAツアー入社、99年タイガー・ウッズ基金会長などを経て、2014年PGAツアー・チャンピオンズ会長兼PGAツアー副会長に就任。青木功とジャンボ尾崎をレジェンドと評価している。