「マネー、それがすべてですよ」
世界最高峰のプロゴルフトーナメント、PGAツアー(米国男子ゴルフツアー)。その運営会社の“頭脳”とも言うべき男、グレッグ・マクラフリンは、ラウンドを終えたばかりのトム・ワトソンに微笑みかけながら、そうつぶやいた。
PGAはいったいなぜ成功したのか? そんな問いに対し、JALが用意したチャーター便で来日したばかりの彼は、いかにもアメリカのビジネスマンらしい物言いでそう言い切ったのだ。
9月8日、千葉の成田ゴルフ倶楽部には、世界のゴルフ界のレジェンドが集まっていた。前出のトム・ワトソンに加え、ジョン・デーリーやコリン・モンゴメリー、マーク・オメーラがいる。米シニアツアー「PGAツアー・チャンピオンズ」公認の「JAL選手権」が行われたのである。レギュラーツアーを含め、日本で「PGA」の公式トーナメントが開催されたのは初めてのこと。
PGAツアーは、毎年10月からスタートする43試合と、最終のプレーオフ4試合の計47試合で賞金ランキングを争うレースだ。賞金総額は3億ドルにも達し、それを獲るために毎回白熱したデットヒートが繰り広げられる。ケーブルテレビの専門チャンネルと全米キー局が試合を中継し、アメリカだけで年間10億人が視聴する。
ではなぜ、そんな人気スポーツのイベントが、わざわざ日本で開催されたのか。理由は、オリンピックと少子高齢化である。
マクラフリンは言う。
「昨年8月のリオ五輪では112年ぶりにゴルフが正式種目になりました。3年後は東京です。そこで日本の市場動向を詳しく調べてみると、特に成長しているセグメントがあったのです。シニア世代です。少子高齢化はゴルフビジネスにとって大きな魅力。プレイヤーの年齢層が他のスポーツと比べて高く、年をとっても続けられるからです。そして何よりも、シニアは時間とお金がある」
日本をターゲットにすることを決めた彼は、シニアツアーの準備を進め、さらに日本を拠点としたアジア戦略の陣営を張る。今年7月、東京・虎ノ門にPGAのアジア支社を開設したのだ。
確かにそれは勢い任せの話にも思える。が、マクラフリンには自信があった。3つの巨額なマネーを操る成功のマネジメントである。
まずは、PGAが長年信頼関係を築いてきた大会公式スポンサーから入る広告収入。BMWやマスターカード、コカ・コーラ、マイクロソフト、モルガン・スタンレー、PwCといった世界を舞台に活動するグローバル企業は、PGAブランドを利用して自社の価値向上を狙う。
次に、「PGAのファンは、年収と教育レベルが高い」という。それを見逃さないのがテレビ局と広告代理店である。高級ブランドや金融機関から広告出稿を得た彼らは、PGAに莫大な放映権料を支払う。
そして、そこに“出演”するスター選手には独自スポンサーが付く。ゴルフメーカーのテーラーメイドやキャロウェイ、タイトリストのほか、ラグジュアリー・ブランドのロレックスやメルセデスは、選手がロゴを着けるだけで大きな宣伝効果を得られる。