幸せのカギは「できること」と「できないこと」を分けること

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東洋医学では脈診で心の状態がわかる。世界のセレブから診察に呼ばれる著者は、ある日、脈を診て気づいた。セレブに共通する「幸せのルール」がある、と。


「身の程を知れ! 分をわきまえろ!」と、若い頃、言われたことがある。「お前が本来できることと、できないことを考えろ」というわけだ。当時は「分をわきまえろ」と言われても、「夢は大きくもて。可能性は無限だ」と言う大人もいたので、私は「分をわきまえる」という言葉に納得できなかった。
 
その後、漢方医として、興味深いことを体得するようになった。漢方医は脈を診ることで、他人の心の状態がわかるのだが、最近、海外のロイヤルファミリーを診察する機会があった。脈を診ると、普通の人よりイライラがなく、落ち着いた脈をしている。通常、お金や権力をもつ人の方がストレスは多い。社長や先生と呼ばれる人ほどストレスを感じている割合が多いのは、過去の診察からもわかっていた。
 
ロイヤルファミリーの心の平安が意外だったので、私は尋ねてみた。「何か精神安定のためにしていることはありますか?」と。すると、「何もしていないが、私たちにはできることとできないことがはっきりしている」と、おっしゃる。そういう状態が精神の安定に影響しているというのだ。
 
帰国後、似た経験をした。ある大企業の会長を診たときのこと。誰もが知る大企業で、創業家と実力のある社員が入れ替わりトップを務める、グローバルカンパニーだ。この会長も脈が落ち着いており、「ストレスはない」と言う。

「私は家柄上、世間的にできることと、できないことがある。だから、そのことを思い出すと、若い頃からイライラしなくなった」と会長は語る。立場上、企業を継がなければならない、勉強もしなければならない、ぐれることもできない。半ば、諦めにも似た部分が今でもある。そのため、少しも焦らないというのだ。
 
できることとできないことを分けられる人の脈は落ち着いている。「医易同源」という言葉を思い出す。医の古典『易経』にある言葉で、「世の中には変わらないものがある」ことを示している。例えば、太陽の動き、潮の満ち引き、四季の移ろい、自分の性別、年齢、親、兄弟などだ。一方、変化するものとして、心のもちようや意思がある。易経では、変えられない「不易」と変えられる部分を分けて整理すると、幸せな生き方ができると説く。
 
可能性に満ちていると思っているせいで、何をしてよいかわからなくてイライラしたり、気持ちが不安定になっている人を見たことがないだろうか。一方、ハンディキャップがあっても悠々と活躍する人もいる。

「諦」という漢字は「あきらめ」という意味のほかに、「悟る」という意味がある。自分があと何年くらい働けるかを冷静に予測するだけでも、ある程度のことは諦めて捨てられるはずだ。今の自分にできることを常に意識している人こそ、幸せを感じられるのかもしれない。


さくらい・りゅうせい◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。聖マリアンナ医科大学の内科講師のほか、世界各地で診療。近著に『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)。

文=桜井竜生

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