──ゲームに対する情熱から2度目のチャレンジを始めたわけですが、結果的に、2度目のゲーム開発も違うビジネス(スラック)に変わってしまいます。
2度目のゲーム開発はより多くの資金調達ができて、前回よりも大きな会社にできました。『Glitch』というゲームを開発し、従業員は40〜50人まで増え、多くの資金を注ぎ込みながら4年間運営しました。でもビジネスとして成功させるには、もっと多くのユーザーが必要だった。
改善のために試行錯誤したのですがうまくいかず、悩みに悩んだ末、我々はゲームをビジネスとして成功させることは不可能である、という結論に至ったのです。だから、資金が完全に底をついてしまう前に、ゲーム開発を止めようと決めました。
資金も少なく、その先は何も決まっていなかった状況なので、会社として多くの人々を解雇せざるを得なかった。これは本当に辛い経験でした。
結局50人弱いた従業員を8人まで減らして会社の規模を小さくし、これからについて膝を突き合わせて議論をしました。「これまでどうやってゲームを作っていたか」「何が良くて、何が悪かったのか」「次は何がしたいか」というように、何度も、何度も。
その過程でふと気付いたんです。次にしたいのは、我々のような小さなチームが、便利で役立つと思えるもの。それはきっと、大企業や他業界でも同様に役立つはずだと。これがスラックのアイデアの起源です。
──辛い時期を乗り越えた経験を経て、いまに活きていることはありますか?
社員を解雇することは、本当に苦渋の決断でした。解雇の前に、全社員に対して職を斡旋したし、いまはもう一度スラックに雇用しなおすこともしていますが、その当時の経験から、社員に対する責任をより強く実感させられました。
特に私たちの会社は若いし、小さいし、成長過程ですから、リスクも大きい。社員には家族もいますし、ビジネスを成功させることへの責任を改めて自覚しました。
また、4年間ゲーム事業を一生懸命やってきて、どれだけ頑張ってもうまくいかない時もあると知りました。でも、努力せずに成功することはない。責任を自覚しつつ、もっと努力をしなければと思いました。
──大好きだったゲームを諦めたり、一緒に働いた社員を解雇せざるを得なかったり、大きな決断をした場面がいくつもあったと。その時、何を一番大切にして決断を下していたのでしょうか。
決断によって何かを得るだけでなく、当然多くのものを失ってきました。その中で、自分たちが一度も譲らなかったのは2つだけ。最高に質が高いモノをつくること、そして、どんなときでもユーザーのことを考えることでした。
そのために、社内の人と話してフィードバックをもらったり、ユーザーと話をして意見に耳を傾けたりすることはとても重要ですし、一番のガイドラインになります。意思決定をするときには、常にユーザーの利益を考えること。もちろんいつも正しい決断ができているわけではなくて、もちろん間違うことも、その間違いに数年後気づくこともある。それはある程度仕方がないことですね。