2人とも賢く勤勉でプロ意識があり、非常に良い社員だ。しかし、2人が活力とやる気を失い、不満と怒りを感じるようになった背景には、共通点があった。それは一言で言えば、上司から尊重されていないと感じていたことだ。
2人は経験と才能を備えた社員だったが、いずれの上司も、相手よりも自分の方が優れており、組織内で立場が上であるがため(この部分は正論だ)、自分を優越した存在だと思っているという態度だった。つまり、立場的な力関係が強調され過ぎて感情的な問題へと発展し、従業員が劣等感を抱えてしまっていたのだ。
これが、士気を下げていた原因だった。2人は根が真面目で勤勉なので、そのような状態でも役目は果たしていたが、それ以上のことをしたがらなかった。義務以上の努力をためらうこうした考え方は、生産性の大敵だ。
2人の「尊重されたい」という願望は決しておかしなことではない。そして残念なことに、こうしたニーズが満たされないのも、よくあることだ。米人材マネジメント協会(SHRM)の調査によると、「あらゆる役職の従業員に敬意を払うこと」が仕事の満足度向上のために「非常に重要」だと考える米国の従業員は72%に上ったが、この点で「非常に満足している」と答えた従業員はたった33%だった。
尊重されたい従業員側のニーズと現実の間には隔たりがあり、このせいで従業員は慢性的な不満を抱え、生産性の最適化が阻まれているのだ。
私個人のマネジメント経験と照らし合わせても、悲しいことにこの傾向は正しいように感じる。上司から尊重される部下は概して、高いパフォーマンスをもってそれに報いていた。一方、部下を尊重しない上司は、より多くの抵抗や反抗を受けていた。
もちろん、従業員を甘やかすべきということではない。有能なマネジャーは必ず高い基準を設定するし、卓越した成果を期待することには常に価値がある。高い基準の存在しないマネジメントは、マネジメントとは言えない。
しかし、尊重の気持ちを伴うことなく高い要求ばかりしていれば、問題の温床となる。こうなれば、管理職が必要な結果を得られない可能性は高くなる。