生水裕美は1999年、消費者からの苦情や相談を受ける消費者相談員(非常勤嘱託職員)として野洲(やす)市役所に職を得て、この「ヤミ金」問題と真正面から向き合うこととなる。まさに火中の栗を拾うがごとくに。
2000年、2001年と、「ヤミ金」に金を借りた多重債務者からの相談が生水のところでも急増する。警察を頼っても「民間人同士の問題」ということで「民事不介入」と判断されるが、生水は諦めず、被害者を救うために奔走した。県内の法律家や消費生活相談員と協力し、多重債務問題に関係する機関が一丸となって取り組めるよう働きかけたのである。
その結果、野洲市のある滋賀県では、全国に先駆けて『多重債務問題対策協議会』が設立され、警察も「ヤミ金」問題に対して積極的に関わるようになった。
しかし、生水のところに相談が持ち込まれる悪質な業者は、「ヤミ金」だけではなかった。リフォーム詐欺などの法律に違反する悪質業者も存在し、その対応にも追われた。当時、生水は消費生活アドバイザーの資格を取得していたため、法律を根拠として悪質業者に適切な対処を迫ったが、彼らはまったくと言っていいほどその行動をあらためなかった。国や都道府県とは異なり、市町村は悪質業者に対する行政処分権を持っていなかったからである。
どうしたら相談者を救えるのか、生水は頭を抱えた。しかも、生水は相談者の代わりに矢面に立ったことにより、悪質業者から「夜道に気をつけろ」、「電車のホームでは前に立つなよ」などと脅しをかけられ、恐怖を感じることもあった。
それでも生水は諦めなかった。他の役所の消費生活相談員へアドバイスを求めたり、積極的に勉強会に参加したりした。さらには、消費生活専門相談員やファイナンシャルプランナー二級の資格も取得し、知識を蓄えた。それらを盾にしながら悪質業者と粘り強く交渉することで、少しずつ市民ひとりひとりを救えるようになっていった。
野洲市役所で働く生水裕美(しょうず・ひろみ)
滞納は市民のSOS
消費者相談の現場で徐々に成果が上がり始めたころ、生水には大きな転機が訪れる。ある日、借金に悩む市民が相談に来た。生水がいままで培った知識と経験を駆使して借金問題を解決すると、なんと、その市民は野洲市に滞納していた税金を、ニコニコしながら払っていったのである。生水はそれを「滞納は市民からのSOS」だと考えた。
滞納しているということは何か大きな問題を抱えているのかもしれない。その「サインを見落とさない体制」の必要性を強く感じた。
生水は、市民税や固定資産税、国民健康保険税、介護保険料、保育料、水道料、学校給食費、市営住宅の家賃などを滞納している市民に対して、「なぜ払えないのか」、「借金に悩んではいないか」、と各担当職員から声をかけてもらうような仕組みづくりを進めた。