そんなコンプリケーションにも類型がある。大きくいえば「音響系」と「表示系」に分けられ、これに、ここ数年よく話題となる「トゥールビヨン」などが加わる。
その音響系の代表が「ミニッツリピーター」と呼ばれるもので、音を鳴らして時刻を知らせる機構を備えた時計である。
「ミニッツリピーター」は、すでに指針が表示した時刻を、再び今度は音で知らせることから付けられた呼び名で、ケース側面のスライドレバーやボタンを操作することで、ケース内部のハンマーがゴングを叩き、音階の異なる2つの音が奏でる数で、その時の時刻を伝えてくれる。
基本的に、時単位、15分単位、分単位で時刻を報じる機能を持っており、たとえば、5時20分の場合、リピーター機構を作動させるためのスライドを操作すると、まず時単位のゴングが5回、ついで15分単位のゴングが1回、最後に分単位のゴングが5回鳴り、現時刻を知らせるのである。
そして、その音は「シ」と「ソ」で構成されており、5時20分だと「ソソソソソ、シソ、シシシシシ」と鳴る。
なぜこのような機構が作られたのかというと、懐中時計の時代、つまり19世紀以前の社会的事情が大きく関わってくる。
当時は、もちろん電気はなくランプの時代。それでも街灯があるところはいいのだが、少ない場所になると陽が暮れればすぐに闇が訪れ、時計が表示する時刻を読み取ることができないことが多かった。夜光塗料が普及したのはもっと後のことになるし、夜が暗闇ではなくなったのは、20世紀に入ってからのことになる。だから、聴覚を利用することを考えたということだ。
それに、その不思議さと可憐な音は、18世紀の懐中時計の時代から、上流階級の人たちを魅了してきたということもある。
この音響系には、このリピーターとよく似た機構の「ソヌリ」というものもある。仏語で時警を意味するのだが、これはあらかじめ決められた間隔で自動的に鐘を鳴らすもので、毎正時や15分ごとに音を鳴らしてくれる。また、ウエストミンスター・チャイムのような複雑な音色を奏でるものもある。
時刻を知りたいのであればスマートフォンを見ればいい、という時代にあって、腕時計の価値を揺るがず伝えてくれるのがコンプリケーション。そのなかでも、もっとも優雅で、時を愉しませてくれる機構が、この「ミニッツリピーター」なのである。
VACHERON CONSTANTIN / トラディショナル・トゥールビヨン・ミニットリピーター
ミニットリピーターとトゥールビヨンという二大コンプリケーションが組み合わされた複雑時計。シルバートーンダイヤルに、手彫りギヨシェによるモチーフが施さたブティック限定モデル。[手巻き、18KPGケース、44㎜径、時価、問:ヴァシュロン・コンスタンタン 0120-63-1755]
AUDEMARS PIGUET / ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ
現在の時分を音で知らせるリピーターと、30分や1時間おきに音が鳴るソヌリを載せたモデル。音を鳴らすためのゴングを音響盤に固定することで増幅させた、美しい音色が特徴。[手巻き、PTケース、43㎜径、価格要問い合わせ、問:オーデマ ピゲ ジャパン 03-6830-0000]
ULYSSE NARDIN / エクセプショナル ジャズ ミニッツリピーター
ブラックオニキスのダイヤル上に、演奏家をかたどったゴールド製の仕掛け人形が複数あしらわれている。そして、チャイム音に合わせて、バンドのショーが始まるのだ。[手巻き、PTケース、42㎜径、4899万円、問:ソーウインド ジャパン 03-5211-1791]
PATEK PHILLIPPE / 5078G グランド・コンプリケーション
5078モデルに初めてホワイトゴールドのバージョンが登場。クリーム色の七宝ダイヤル、 ホワイトゴールド植字ブレゲ数字、ブレゲ式指針が新しくデザインされている。[自動巻き、18KWGケース、38mm径、時価 問:パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター 03-3255-8109]