「学べなかった女」を勇気付ける、自尊心回復のストーリー

『マダム・イン・ニューヨーク』主演のシュリデヴィ(中央、Photo by Jag Gundu/Getty Images)


初級クラスは、スペイン人のベビーシッターや、IT企業に勤めるインド人、美容師の若い中国人女性など国際色も個性も豊かで賑やかだ。その中に、例のカフェから逃げ出してしょんぼりしていた彼女を、片言の英語で励ましてくれたフランス人の青年ローランもいた。

家でラドゥというお菓子を作って売っているとのシャシの自己紹介に、先生曰く「あなたは起業家ですね」。今まで夫にも娘にもこんなふうに一人前の人間扱いされたことがなかった彼女は、驚きと喜びで一杯に。このゲイの先生の、滅法明るくて温かみのあるキャラクターがいい。

だんだんと教室通いにも慣れ、皆と打ち解けていくシャシに、何かとアプローチしてくるのがローラン。コックとしてホテルで働く彼は、シャシに一目惚れしている。もともと美人なシャシだが、はにかみ屋で謙虚な人柄と、新しいことを学び吸収しようとする熱意が、その美貌を一層輝かせている。教室の帰り道、覚えたての英語とそれぞれの母国語混じりの、2人の不器用なやりとりは微笑ましい。

そこを偶然、姪ラーダに見つかるも、彼女は英語を習い始めたシャシを歓迎し、陰ながら応援するようになる。しかしインドにいる夫や娘との国際電話では、せっかく芽生えてきたひそかなプライドを鼻で笑われてがっかりしたり、一方的にバカにする態度をとられて怒り心頭となったり……。

初めての土地での新しい体験と、離れた家族の無関心・無理解に一喜一憂するシャシだが、根が真面目で努力家だったゆえ、いつのまにかカフェのオーダーもすんなりできるまでに英語力アップ。

一方、ローランを好ましく思いつつも、どう距離をとったらいいかという新たな悩みで心が乱れ始める。

あと一週間で授業が終わろうという時、結婚式直前に渡米する予定だった家族がサプライズで突然ニューヨークに来たのを皮切りに、次々と最悪のタイミングでアクシデントが起こる。あたかも、主婦が家族のことを忘れて学校に通い、親しい男友達など作ったから罰が下ったのだと思わせるかのように。すくなくともシャシはそんなふうに感じただろう。

だがここで、たった一人の味方、ラーダが活躍する。同じインド人だが「学べた女」である大学生が、インドから来た年上の「学べなかった女」を救うのだ。

人々が一同に揃った中での、シャシの拙いが心のこもった英語のスピーチは、聞く者の胸を感動とある感慨で満たす。なぜならそれは、彼女の努力の証であるとともに、家族への真摯なメッセージであり、一人の女性の、人生への深い洞察に満ちたものでもあったからだ。

【連載】シネマの女は最後に微笑む
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文=大野左紀子

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