1999年、「メリッサ」と呼ばれるウィルスがマイクロソフトのWordに感染し、ウィンドウズのパソコンとビジネス界に大打撃を与えた。その被害額は8000万ドルとも推定されており、この件によって、いまでは当たり前となったウィルス対策ソフトウェアの導入が大幅に進むことになった。
その直後、2000年には「Mafiaboy」を名乗るハッカーが、アマゾン、イーベイ、E*TRADE、そして当時世界最大の検索エンジンだったヤフー!といったサイトを立て続けにDDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)。その集中攻撃は、100億ドルを超える損害をもたらすことになった。
近年、サイバー攻撃に対する懸念がますます深刻なものになっていることに疑いの余地はない。世界経済全体で見ると、2016年のサイバー攻撃による損失額は4500億ドルにのぼる。そしてその額は、2021年までに2兆ドルを超えると考えられている。企業にとって、ハッキングとは不可避なリスクであり、その影響はもはやビジネスやPRの問題に留まらない可能性もある。
そうした状況を考えれば、サイバーセキュリティー商品・サービスへの期待が近年急速に高まっているのは驚くことではない。リサーチ会社Cybersecurity Venturesによれば、 サイバー攻撃対策に割かれるコストは世界で年々12〜15%増えており、2021年までに1兆ドルを越えると予測されている。FireEyeやSymantec、Palo Alto Networksといったサイバーセキュリティー企業にとっては朗報といえるだろう。
「黒い果実」はかくして甦る
サイバー攻撃の恩恵を得る存在として意外と知られていないのは、ブラックベリーだろう。同社の過去の失敗はよく知られている。一時はスマートフォン市場の50%を占めていたにもかかわらず、アップルとアルファベットが独自のOSを開発するやいなや存在感をなくしてしまった。ブラックベリーはその後、ハードウェアビジネスで勝負することを避けており、昨年の発表によれば、今後はエンタープライズソフトウェアとIoT市場にフォーカスするという。
そうした展開のひとつとして、ブラックベリーは今年10月、サイバーセキュリティーに特化したコンサルティング部門を設立した。同社が、この領域に詳しい専門家を戦略的に獲得してきた成果である。暗号化サービスのトップ企業でもあるブラックベリーにとって、これは自然な展開だった。ブラックベリーの高い信頼を得ているセキュリティーデバイスは、ホワイトハウスや米国議会、インテリジェンス・コミュニティーといった極秘情報を扱う米政府機関に長いこと使われているのだ。
自律走行車やIoTが実装されていくこれからの数年間で、サイバー攻撃はグローバル企業にとって大きな脅威となるだろう。それはブラックベリーにビジネスチャンスを与えるだけでなく、歴史に残る会社の転換をもたらすかもしれない。少し前なら考えられなかったことだが、ブラックベリーがサイバーセキュリティーサービスの一流プロバイダーになったとき、ひょっとしたら同社は、アマゾンやアップル、アルファベットといったテックの巨人たちにとって魅力的な買収先になるかもしれないのだ。