ドイツを支える自動車産業は今、第2次世界大戦後、最も深刻な危機を迎えている──。
同国が約120年前に発明し、その自動車産業が重要なビジネスモデルとしてきたディーゼル・エンジン技術に対し、大きな疑問符が投げかけられている。国内では「ディーゼルだけではなく、内燃機関を使うクルマの時代は終わった」という論調すら出始めているのだ。
だがドイツの自動車業界では、これまであまりにも長く内燃機関に力を注いできたために、消費者の需要を満たす電気自動車(EV)の開発が遅れている。各メーカーは今後、短期間に多額の投資をしてビジネスモデルを根本的に転換しなくてはならない。“自動車帝国”のドイツにとって、次の10年間はいばらの道だ。この国の自動車メーカーが直面している試練は、次の3つに集約できる。
1. 裁判所の判決に基づく、ディーゼル車の大都市への乗り入れ禁止問題
2. 排ガス不正事件の拡大
3. ドイツ自動車メーカーの技術カルテル疑惑
ドイツ南西部バーデン・ヴュルテンベルク州の州都シュツットガルト。今年7月に同市の行政裁判所は、ドイツの自動車産業の針路に大きな影響を与える判決を下した。同市では7年半前から、窒素酸化物(NOx)濃度がEU法の上限値(1立方メートル当たり40mg)を大幅に上回る違法状態が続いている。
このため、環境保護団体「ドイツ環境援助(DUH)」が、同州政府を相手取って行政訴訟を起こし、大気汚染を減らすために厳しい措置を取ることを求めていた。シュツットガルト行政裁判所は、DUHの訴えを認め、「この違法状態を終わらせるには、2018年1月1日からディーゼル車の市街地への乗り入れを禁止することが最も有効だ」という判断を示した。
シュツットガルトは、ダイムラーやポルシェが本社を置く、ドイツ自動車産業の中心地の1つ。いわば日本の豊田市に相当するような町である。裁判所は、そのような町からディーゼル車を締め出すことを求めているのだ。ドイツ自動車史上例のない事態といえる。しかも問題はこの町に留まらない。DUHは他に15の町でも同様の訴訟を提起している。
もちろん今回の判決は、司法の最終判断ではない。バーデン・ヴュルテンベルク州政府はライプチヒの連邦行政裁判所に控訴した。だが、もし連邦行政裁判所が18年春に判決の適法性を追認した場合、ドイツ車の約40%を占めるディーゼル車が、多くの都市から締め出される可能性が強まる。
排ガス不正は他社にも飛び火
ドイツ連邦政府とバーデン・ヴュルテンベルク州政府、自動車業界は、ディーゼル車の乗り入れ禁止を是が非でも避けることをめざしている。
このため連邦政府は8月2日、ベルリンで開いた「ディーゼル問題対策会議」にVWやダイムラー、BMWなど自動車メーカー8社のCEO(最高経営責任者)らを招いて対応策を協議した。その結果、ドイツの自動車メーカーは、同国内で使われているディーゼル車約530万台のソフトウェアを無償で更新することによって、NOxの排出量を来年末まで25〜30%減らすことを約束。各メーカーは「この更新措置によって、燃費などが悪化することはない」と説明している。