ビジネス

2017.12.07

スタートアップ大国、イスラエルの秘密|出井伸之

クオンタムリープ代表取締役 出井伸之氏


兵役で会得した技術を活用して起業することに協力的なイスラエルは、国民全員が起業家といわれるようにスタートアップを育てるエコシステムを国として確立させている。だからこそ何もないところから革新的なものを生み出せる「0〜1」の国で、一方日本は、既存のものの改良改善・合理化を行い大きくするのが得意な「1〜100」の国だ。これはもう、国が成り立った歴史やおかれている状況、そしてユダヤ人と日本人の違いということにもなるかもしれない。

そして3つ目は、国民性と時間軸の違いだ。とにかく現地で思ったのは、失敗を怖れないのがイスラエル流ということ。失敗すると「よくやった。次の糧になる」と言われているし、今までどんな失敗したのかと、よく聞かれていた。失敗することで次のベンチャーで成功する確率も高くなるということのようだ。

一方日本では、失敗すると全ての終わりに思うし、周りもそう扱うので、行動も慎重になり、調査検証の繰り返しでなかなか実行に至らない。失敗を受け入れる国民性と国の体制はとてもいいことだと思う。これは起業だけでなく教育でも同じだ。日本はぜひ見習うべきだと思う。

そして、その国民性の違いには、時間軸の違いが大いに関係していると感じた。イスラエルはいつ戦争を起こしてもおかしくない国に囲まれていて、日本のように周りを海で囲まれ終戦後平和を保っている国とは、時の捉え方がまるで違うのだ。ゆっくり大企業をつくり長期改善している暇はないから、すぐに実行し、失敗を恐れず次に進む。そういった時間軸で進まないと生き残る道はない、そうイスラエルの人たちは日々感じているのだと思った。

イスラエルに学ぶ、パラダイムシフトに必要なもの

11月末、東京で行われた「日本・イスラエル・ビジネスフォーラム」と「サイバーテック東京2017」に、スピーカーとして登壇させていただいた。今年5月に世耕経済産業大臣がイスラエルを訪問して、日本とイスラエルの経済関係の道筋を示す取り組みの「日イスラエル・イノベーション・パートナーシップ」に署名してから、二国間の関係がさらに強固なものになってきている。

私はイスラエル訪問前、「0〜1」のイスラエルと「1〜100」の日本はうまく掛け合せればよいと考えていたが、実際行き、話を聞いてみると水と油ぐらい全く違うと思った。だからこそ補完し合えると思う。それに日本はこういった国と付き合えないと、今後イノベーションは起きにくい。もともと成り立ちが全く違うイスラエルとビジネスをすることで、思考や制度、そして規制などの多くを学ぶことができると思う。

何度も言っているが、今は大きな技術のパラダイムの節目にある。世界的に新しい「0〜1」を生み出すチャンスだ。イスラエル方式だけがお手本ではないが、この国と付き合い、例えば似たようなエコシステムのようなものをつくることができれば、日本でも新しいイノベーションが生まれる可能性が高まるだろう。

自ら新しいものをつくることは当然できることだ。ここで、国の規制が最も大切なことになってくる。テクノロジーはダイナミックに変わっていくが、規制は一度決めたらなかなか変わらない。例えばブロックチェーンによるパラダイムチェンジは、縦割りの省庁にとらわれず、国が一丸となり技術にあった新しい規制を作り出す、そういったことができれば、イノベーションは起こるだろう。

経済を全く変えていく新しい技術、今度こそは乗り遅れないようにしたいものだ。それには、新しい規制、そして新しい基本法など、国の協力が必要だ。

インタビュー=谷本有香 構成=細田知美 撮影=藤井さおり 取材協力=Quantum Leaps Corporation 撮影協力=512 CAFE&GRILL

タグ:

連載

出井伸之氏のラストメッセージ

ForbesBrandVoice

人気記事