一方で、銀行ビジネスモデルのしぶとさが各国で示されたことも、今年の特徴であった。
ルネサンス期から600年続く銀行のビジネスモデルは、預金を核として、あらゆる経済活動に不可欠な支払決済サービスを提供しながら、民間のイニシアチブに基づく資金配分も同時に実現するという、経済史上の大発明であり、さまざまな技術革新・金融革新の中でも、生き残り続けてきた。
前述のアリババやテンセントは、人々の生活全般をカバーするサービス追求の結果、グループ内に銀行を持つに至っている。一方で先進国、とりわけ米国では、大規模金融機関によるフィンテック企業のM&Aが増加している。
これらの動きは、銀行サービス自体は、(それをいかなる主体が提供するかは別として)各国で当面必要とされ続けるであろうことを示唆している。この中で、既存の金融機関も、フィンテックを“disrupter=破壊者”ではなく、新たなサービス実現を可能とする“enabler=実現手段”と捉える、冷静な見方が増えている。
ICOや仮想通貨取引には信認確保を
今年を特徴付けるもう一つの出来事は、仮想通貨同士を交換するICOと呼ばれる新たな資金調達の拡大と、仮想通貨の価格急騰であった。
この中で各国当局は、ICOが証券関連の法規制を免れるために濫用されていないか、また、ICOのリスクが十分認識されないまま、仮想通貨の短期的な値上がり益期待が投機のドライバーとなっていないか、関心を強めている。多くの金融当局が、投資家や消費者に対し、ICOのリスクを十分認識するよう、注意喚起などを行っている(日本もその一つである)が、中にはICO自体を禁止する国々まで現れている。
金融手段も含め、新たに生みだされるものが「フェイク」に使われる可能性があるからといって、全てを頭からフェイクと決めつけることは極力避けるべきだろう。
一方で、とりわけ「信認」が大きな意味を持つ金融において、少しでも「フェイク」が混じってしまうと、「マトモなもの」と「フェイク」を区別することの難しさが、スキーム全体への不信感に繋がりかねない。関係者におかれては、ICOや仮想通貨取引への信認確保に細心の注意を払って頂くよう望みたい。