企業は自らの利益を増やす能力、あるいは(増益につながる)顧客満足度を上昇させる能力について分析し、その結果に応じて採用に関する計画を立てるものだ。法人税率の引き下げが雇用の増加に直結しないと考えられる理由は、少なくとも7つある。
1. より重要なのは顧客
経営陣が最優先するのは、優れた製品やサービス、あるいは少なくとも自社の顧客にとって価値があるものを開発・生産し、サポートすることだ。従業員の昇給は、直接的な顧客の利益ではない。
2. 経営陣は何より利益を上げたい
経営陣は利益を上げ、投資家らに報いる必要がある。従業員らの昇給は、企業にとってはコストを増やすものであり、同時に利益を減らすものだ。経営側はこれらのバランスを取らなければならない。
3. 給与は利益への貢献度で決まる
従業員の給与は企業がどれだけの利益を上げているかではなく、企業から見た従業員の価値で決まる。つまり、最も高い業績を上げている人材には高額の給与を支払う一方で、企業としてはできる限り低賃金にとどめたいと考える職種もあるということだ(こうしたことに関する情報を提供するコンサルタントが数多くいる)。
4. 給与は仕事のスキルレベルで決まる
米国の労働力には、スキルギャップの問題がある。政府の最新の調査結果によれば、国内には約624万人の求職者がいるにもかかわらず、採用者が決まらない求人件数が610万に上っている。企業側は必要なスキルを持った人材の不足を指摘しており、採用時の給与額を引き上げることで、問題が完全に解決するわけではないと考えている。
5. 自動化の進展が影響
製造業では過去20年ほどの間に、生産量が増加すると同時に雇用が減少してきた。その一因が、自動化の推進だ。製造業にとどまらず、企業の増益は賃金上昇ではなくロボット化の一層の推進と、生産性向上に向けたその他のツールの導入につながるだろう。そして、それは雇用の減少という結果を生むと考えられる。賃金水準が上がれば、自動化推進を目指す企業が増えることになるだけだ。
6. 増益と賃金上昇は連動しない
金融危機の後、企業の利益率には改善が見られ、過去6年間は9%超を維持している。だが、この間の賃金の上昇率は2%程度だった。利益率の上昇と収益性の改善の理由の一つとなっているのが、賃金水準の停滞なのだ。企業の利益が今後さらに増えたとしても、それだけでこうした傾向が変わることはないだろう。
7. 米国の法人税率は「すでに」実質20%
トランプ大統領は法人税率を15%とすることを求めていたが、恐らく議会はこれ以上の引き下げに関する議論に応じないだろう。アップルやシスコ、グーグル(アルファベット)、マイクロソフト、オラクルなどの多くの企業に適用されている税率は現在、すでに20%を下回っており、税制改革が大きな影響をもたらすことはないと見られる。
ボーナスには好影響の可能性も
増益を実現すればボーナスの支給額を増やすという企業もあるだろう。だが、全企業がボーナス制度を導入しているわけではない。