税務を専門とする弁護士らはこれを受けて早速、マークルが米国籍であることの問題点を指摘している。英王室にとっての頭痛の種になる可能性があるためだ。
米国籍を放棄しない限りマークルは、居住地が世界中のどこであろうと、どの国で得た収入についても毎年、米国で確定申告とFBAR(外国金融口座の報告)を行い、保有資産に関する情報を開示しなければならない。
米国人と結婚した外国人の95%はそれが当然のことと考え、夫婦合算申告を行うようになる。だが、ヘンリー王子が米内国歳入庁(IRS)との関わりを持たずにいられるようにするためには、マークルは個別に申告を行わなければならない。そうするようにとの指示を受けることは間違いないだろう。ただ、子供が生まれれば、その子はどうなるだろうか(親が子供の国籍離脱を申請することはできない)。
マークルは今後、前ロンドン市長でもあるボリス・ジョンソン外務大臣と同じ行動を取ると考えられるだろう。ニューヨークで生まれ、英国で育ったジョンソンは米英の重国籍者だった。IRSとの対立があったことも知られており、現在は米国籍を離脱している。
一方、2010年に成立した米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)は外国の政府や金融機関に対し、米国人がその国で保有する口座についての情報提供を求めるものだ。IRSの要請に応じない場合には罰則の対象となる可能性がある。長期にわたり外国で暮らす米国人は居住国に加え米国でも所得申告と納税の義務を負うことになり、大きな負担となっている。
FBARは、関連規則に違反ずれば民事と刑事の双方で罰則の対象となる。民事責任を問われただけの場合でも、口座残高を全額失う可能性があり、外国の銀行の中にはこれを理由に、米国民による口座開設を快く思わないものもある。
増加が続く米国籍離脱者
今年第1四半期と第2四半期に米国籍を離脱した人は、それぞれ1313人、1759人だった。第2四半期の離脱者数は、1四半期当たりでは過去最多となっている。昨年の一年間では、合計5411人に上った。
皮肉なことに、米国籍を放棄するにも多額の費用がかかる。国籍離脱の申請料は、その他の高所得国の平均の20倍以上に当たる2350ドル(約26万5000円)。以前は450ドルだったことから、422%上昇したことになる。料金の引き上げについて米国務省は、申請者が増加しているためと説明している。
さらに、国籍を離脱するためには過去5年間に所得税の申告納税義務を果たしている必要がある。200万ドル以上の資産を保有している、または過去5年間の所得税額が年間16万2000ドルを超える人の場合には、国籍離脱税も支払わなければならない。永住権保有者がその権利を放棄する場合も同様だ。