「世界の工場」と聞き、中国を連想する人は少なくないだろう。しかし、その中国の役割がいま、大きく変わろうとしている。1960年代の日本のように、労働コストが上昇しており、国内に製造拠点を持ち続けることが企業にとって負担になっているのだ。
上昇する人件費に対応するために、従来の労働集約型の産業から資本集約型の産業へ移行している。70年代に日本、そして80年代に韓国や台湾、香港、シンガポールがそうしたように、中国の製造企業は今後、他の低所得国へ製造拠点を移していくだろう。(中略)
中国がその「新世界」で果たす役割は決して小さくはない。現在はまだ中所得国だが、さらなる発展を望んでいることもあり、これからもいっそう市場を開放していくことだろう。
もちろん、健全な発展をしていくうえで課題も多い。例えば、①貧富の格差、②汚職、③環境問題、④財政の安定、といったリスクがあるのも事実だ。
特に①貧富の格差や②汚職は、中国が計画経済から市場経済へ徐々に移行してきた過程で生じた副産物ともいえる。競争力のある大企業が少なかった初期は、保護政策や補助金が産業を育成するうえで重要な役割を果たしたが、いまでは汚職の温床になってしまった。さらなる社会・政治的な問題を引き起こしかねないので、対策が求められるだろう。
③環境問題もやはり、経済発展と無関係ではない。一般的に、経済発展の初期段階では農業が中心であるため、環境問題は起こらない。だが、次の製造や工業が中心になる段階では、環境問題はつきものだ。そしてサービス業が増えると、エネルギーやガス排出量は自ずと減る。
いまの中国は製造業が中心なので、しばらくは環境問題に悩まされるだろう。もっとも、環境技術が著しく進歩していることもあり、過去の先進国ほどには苦しまずにすむかもしれない。
④財政の安定で最も懸念されているのは、地方政府が抱える債務問題と住宅・不動産バブルだ。
地方政府がシャドーバンキング(影の銀行)を利用したことで抱えている債務問題は、外貨ではなく、すべて人民元建てということもあり、政府指導部は十分に管理できるはずだ。
なかには破綻する地方政府もあるだろうが、差し迫った危機になるとは思えない。中国政府は用心すべきだが、リスクはコントロール可能な範囲内である。(以下略、)