日本のカーメーカー各社は東京モーターショーで素晴らしいデザインを披露した。トヨタ、日産、マツダ、スバル、ホンダそれにレクサスも、デザインの評価は高かった。
しかし、スティンガーには、もっと何かがある。それは、日本のカーメーカーがこれまでに試してみたこともないことだ。これは韓国とドイツの血を引き、手塩にかけて育てられた新種のモデルで、今マーケットが熱狂している。
このスティンガーにロサンゼルスで試乗したのは数十分だったが、自分が乗っているのは、実に特別なモデルなのだということは明白だった。エンジンは力強い3.3L V6 ツインターボで365hpを発揮し、静止状態から時速100kmに到達する時間はわずか4.7秒だ。もちろんトランスミッションは8速オートマチックで、後輪にパワーを伝達する。四輪駆動の仕様もあるけど、僕が今回乗ったのは後輪駆動。
V6はターボラグはなく、即パワーを発揮する。4つのドライブ・モードから「スポーツ・モード」を選択すると、ステアリング、スロットル反応、ダンパーのセッティングがよりシャープになり、日本車を凌いで、ヨーロッパのライバル車と互角の加速とコーナリング性能のレベルだ。
僕がただひとつ不満だったのは、このトランスミッションだ。だって、マニュアル・モードがないから。自動的にシフトアップするので、自分でギアをキープすることができない。
名門ニュルブルクリンクで鍛えられたスティンガーGTは、ステアリングは正確で、手応えもちょうどよく、路面からのフィードバックもしっかりある。ブレンボー・ブレーキのフィールは素晴らしく、ダンピングは固めだが、乗り心地はしっかりとして心地よい。インテリアはドライバー中心にしつらえてある。本革のトリムが用いられ、コントロール・スイッチ類もうまく配置されている。
スティンガーGT インテリア
さて、インテリアの質感も高く、乗り心地もよく、きびきびとしたV6ダーボで、クラス一番の性能を持つかっこいいスポーツ・セダン。その価格は約4万ドル(約440万円)で、他のライバルよりだいたい100万円は安い。
これだけのメリットがあるのに、もしスティンガーGTに背を向けるとしたら、それはステアリング・ホイールの中心にあるキアのバッヂのせいではないだろうか。あなたは、どこまでブランドにこだわるだろうか? このクルマがキアだから視野に入れないという人はいるだろう。でもそういう人も考え直してもいいのではないかと思う。なぜなら、スティンガーGTは優秀だからね。
キア社は、パフォーマンス・セダンとして何がベストか、何が一番求められているかを、根本から考え直した。しかし、日本の自動車業界は、特に最近は大きく進歩してはいるものの、やはり万人に受け入れられる安全なデザインに縛られて、とにかく美しいものを作ろうという姿勢はあまり感じない。マツダ以外はね。
キアのケースで明らかなように、一歩先んじようとすれば世界に向かって開き、リスクも覚悟しなくてはならない。でも、この2つは、多くの日本の企業が乗り気にならないことのようだ。確かに、日産は外国人の重役と上級デザイナーを迎えた。でも、それを充分に活かしてはいないようにも思える。
自動車業界全体がグローバルになった今、日本社会も将来の繁栄のために、グローバルに才能ある人材を取り込んでいかなければ取り残される。素晴らしいスティンガーGTを見て僕が思ったのは、それだった。
国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
「ライオンのひと吠え」 過去記事はこちら>>