首長が動かなければ実現しない
しかしながら、この給与制度改革は市長の独断ではできない。地方議会である箕面市議会の承認を得なければならず、実はここが最も難易度の高い障壁となる。
通常、地方議会が職員の待遇について議決する場合には、自治体と職員組合が話し合い、既に折り合いをつけたものを追認するケースが多い。しかし、当時の職員組合は議論に応じず、いわゆる牛歩戦術をとった。そこで倉田は、職員組合との合意を待たずに議案の提出を試みる。しかし、議会側からこれを強くいさめられたことから、一旦は思い留まることとなった。
ところが、待てど暮らせど全く進展がないため、倉田は職員組合に通知をした上で、前回から4か月後に行われた定例議会に議案を提出した。もちろん、この時点では職員組合との合意には至ってはいない。
これには議会も職員組合も大慌てとなり、判断を預けられた議会は当事者として責任を負う形に。結果として、一部の議員も倉田を後押しするように動き出す。職員組合に対して、「お前ら、いつまでもつべこべ言っているんだったら、わしらも議決しちまうぞ」と、交渉の場につくようにアプローチをしてくれた者もいた。
紆余曲折を経た中でようやく組合との交渉が妥結し、議会の会期中に条例を可決することができたのである。倉田からすると薄氷を踏む思いだったという。
全国の地方自治体で給与制度改革を進めるために必要なことを尋ねたところ、倉田はこう応じた。
「人事給与制度って、鬼門に思えるじゃないですか。これは市長が動かないと無理です。多くの市長は普段は人事給与制度を見ない。だから、本当にどうなっているのか分かっていない。僕もそうだった。だからまず、自分のところの制度がどうなっているのかを見てほしいですね」
箕面市が年功序列の給与制度を改革したのは2014年のこと。それから3年を越える年月が経つが、他の自治体が追随した事例は未だに存在しない。しかし、倉田と同じように改革を進めたい首長は全国にいるのではないだろうか。人事は組織の根幹である。首長にとってその変革は決して簡単なことではないが、困難であっても、新たな事例が生まれることを期待したい。