成功のために必要なたった一つの「自己啓発本」

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本に関しては基本的に博愛主義だが、それでも苦手なものはある。書店には半日いたって飽きないけれど、それでもほとんど足を向けないフロアがある。

にもかかわらず、その手の本は常にベストセラーの上位にランクインし、店頭でも否応なく視界に入ってくる。しかも個人的にはまったく興味が持てないのに、いろんな人から「もう読んだよね? 面白い?」などと感想を聞かれる。「読んでない」と正直に答える時はまだいいほうで、虫の居所が悪かったりするとついつい「つまんないよ!」と(読んでもいないのに)答えてしまったりする。

あー、まったくイライラする。これじゃまるで俺が嫌な奴みたいじゃないか。でもどーしても、好きになれないのだ。あの「自己啓発書」とやらが。

なぜ苦手なのかって? だってそうでしょう! あの手の本は大別すると2種類に分けられる。

1. 「わたしはこうやって成功した」と著者が自らの体験に基づいて書いた本
2. 過去の偉人たちの名言などをまとめた本

どちらもコンセプトは同じだ。人生で成功するための本である。だが自己啓発書が信用ならないのは、本に書いてある通りに実行したとしても、ほとんど成功の見込みはないことだ。そもそも自己啓発書を読み込んだおかげで億万長者になったって人、周りにいます?

さらに重大な欠陥は、どちらも証拠や根拠が示されていないことである。つまりなぜこうやったら成功できたのかというエビデンスが一切書かれていないのだ。「無責任にいい加減なことを書き散らした本」。自己啓発書からはそうしたマイナスのイメージが拭えない。

『残酷すぎる成功法則』エリック・バーカー著 橘玲・監訳 竹中てる実・訳(飛鳥新社)は、そんな自己啓発書嫌いが思わず手にとってしまった一冊。これがむちゃくちゃ面白い。たとえるなら、毛嫌いしていたタイプの相手と出会いがしらに恋に堕ちてしまったような、そんな感じである(わかりづらい?)。

なにしろ本書は、巷の成功法則をすべてエビデンスベースで検証し、本当に役に立つ成功法則を探し出した一冊なのだ。読めば意外な話が満載で、あなたの思い込みや常識を次々に覆してくれるだろう。

たとえば「社交的な人間は成功する」という命題は正しいか考えてみよう。おそらくほとんどの人が「正しい」と判断するはずだ。ところが学問的にはそうとも言い切れないのである。

たしかにお金について言えば、外交的な人のほうが稼ぐことがわかっている。スタンフォード大学がビジネススクールの卒業生を20年間調査したところ、成功者のほとんどが典型的な外交型人間だったという。だがこれを「スペシャリスト」という側面から検討してみると、まったく違った真理が浮かび上がってくる。

『外向性は個人的な熟達度と負の関係にある』と題した研究がある。つまり「何かをマスターしようという時、外交的であればあるほど成績が落ちる」ということだ。平たくいえば、外交的な人間は人づき合いに時間をとられて、特定のジャンルを掘り下げる努力をする暇がない、ということなのだろう。

ある研究によれば、トップ・アスリートの10人中9人は、自分のことを内向型だと認識しているという。また別の研究では、超一流の演奏家の90%が、技量を磨くために最も大切なことは何かという質問に「独りで練習すること」と答えている。
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文=首藤淳哉

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