残念ながらここ数年の間、国粋主義的な経済政策を採用する国が相次ぎ、その多くが移民の制限をちらつかせてきた。こうした政策を持つ国から「世界市民」が去っていく中、企業もそれに合わせて戦略を修正している。革新的な企業は、長期の革新戦略と短期的な事業戦略との整合性をしっかりと保っているものだがが、この整合が取れている会社の数が昨年、著しく減少したことが、ストラテジーアンドの調査で分かった。この原因はおそらく政情不安にある。
人事コンサルティング企業、インスティチュート・フォー・コーポレート・アクティビティ(i4cp)が今年発表した調査結果によると、移民政策の厳格化によって自社の今年度の生産性と研究能力の両方に著しい悪影響が出ると予測していた企業は4社中1社近くあった。
スケールアップの阻害
世界中で人の流れがあることは、企業や学術機関の研究所で新たに生まれる素晴らしいアイデアを、世界に影響を与える商品へとスケールアップする上でも非常に重要だ。英政府機関「イノベートUK(Innovate UK)」の最近の調査では、高度技術系スタートアップの大部分が事業の国際展開を望んでいるものの、現地の市場に関する知識がないことが障壁となっていることが分かった。
そこで、例えば欧州連合(EU)では、欧州イノベーション・技術機構(EIT)が同域内の多様な分野のスタートアップに対する支援ネットワークを提供している。欧州各地に拠点を持つEITは、600社近くのスタートアップや200余りの大学・研究所と協働し、欧州のさまざまな市場を活用するためにスタートアップが必要とする支援の提供を目指している。
最高の研究を達成するには、アイデアや人、視点の自由な交流が必要なこと、そうしたアイデアを世界市場で実現するためには多様な労働者層が持つ現地市場に関する知識や接点が必要であることは、研究結果により示されている。それにもかかわらず、その正反対の政策を採用し、進歩を促す人々を悪者扱いすることは、とんでもなく愚かな行為だろう。