ビジネス

2017.11.30

企業価値向上のために エーザイCFO独自のファイナンス理論

エーザイ 柳 良平 常務執行役CFO


──CFOポリシーの骨子は。

センターラインにあるのは「ROE(自己資本利益率)マネジメント」。ROEが企業価値の代理変数であり、長期的視点で「ROE経営」をすると宣言している。そこで重要なのは企業価値創造の評価指標としての「エクイティ・スプレッド」。「ROE(自己資本利益率)−COE(株主資本コスト=株主の期待する投資リターン)」の数値だ。エクイティ・スプレッドが正の値であればPBR(株価純資産倍率)>1となるため、これがプラスであれば価値創造企業だ。

投資家が期待する以上のROEをあげることが鍵となる。米国の管理会計では、経営と両立できるはずである。企業経営とEVA(経済付加価値)と並んで重要な指標だ。CFOポリシーにも、エクイティ・スプレッドを10年平均でプラスにすると記載している。もちろん財務の健全性と高潔さを意味するファイナンシャル・インテグリティも前提条件だ。

──ROEとESGとの関連性については。

「ESGのためのESG」ではなく、あくまで「価値創造のためのESG」だ。私は、この2つをつなぐのが「企業理念」だと考える。CSV(共有価値の創造)は社会的価値と経済的価値を同時に両立するが、エーザイの場合は、順序を重視して最初に患者様価値であり、結果としての経済的価値である。

その最たる例が、世界保健機関(WHO)を通じたリンパ系フィラリア症治療薬の無償提供だ。このプロジェクトは単なる寄付や赤字プロジェクトではなく、超長期投資だ。試算では10年の期間での正味現在価値はマイナスだが、30年まで延ばせばプラスになる。長期では企業価値の創造を証明できる。

PBR1倍以上の付加価値部分が、知的資本、人的資本、製造資本、社会・関係資本、自然資本などに含まれる「無形の価値」と関係している。ROEとESGの価値関連性を証明することが重要だが、実証研究でも相関するとされており、ESGの取り組みと長期的なROEの追求が株主価値創造につながる。ESG志向は、ROE経営と両立できるはずである。企業経営として「見えない価値を見える化する」ことに挑戦すべきだ。


やなぎ・りょうへい◎1962年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、米国サンダーバード国際経営大学院にてMBA、京都大学大学院にて博士号(経済学)取得。銀行、メーカー、UBS証券を経て、2009年エーザイ入社。15年から現職。東洋大学客員教授。

エーザイ◎痴呆治療薬「アリセプト」、胃潰瘍薬「パリエット」を主力とし世界展開する製薬会社。海外売上率40%。2000年代に動物薬事業を売却、食品・化学や機械系を分社化するなどスリム化を図り、医薬品事業に特化。米MGIを4350億円で買収するなど、ガンと認知症への開発投資に積極的。

インタビュー=日置圭介 構成=山本智之 写真=Kay N

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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