その背景にあるのは、この20年での客層の変化だ。トリサラは宿泊だけで一泊1000米ドルする高級リゾートで、かつてはゲストの年齢層は高めだったが、近年、ロシアや中国から25〜45歳の若い滞在客が急増しているのだ。
「こういった若い世代は、ビーチとプールでくつろぐだけではなく、より体験型の休日を好む。だからこそ、リゾートとしては、滞在客に、いかにクリエイティブな滞在を提案できるかが鍵となる。食事、健康、スパやフィットネスなどです」
その言葉を体現するのが、去年12月に行われた大規模な改装だ。新しい印象を与えるため、スパのブランドを変え、ジムの機材を一新した。一部の部屋を、重厚なチーク色の木材ではなく、軽やかな印象のあるベージュ色に変え、大きめサイズに変更した。
また、近年の健康志向も相まって、体の内側から浄化される感覚、というのも大切な要素の一つだ。実際に、朝食会場には、「デトックス」や「美肌のため」などとうたい、プロテイン、ビタミンCなどの栄養素が明記された様々な「目的別」自家製フレッシュジュースが並べられている。
「目的別」の自家製フレッシュジュース
さらに大きな変革といえば、新しく、ファームトゥーテーブルがコンセプトのレストラン「プルー(PRU)」をオープンしたことだろう。ありきたりの食事とは一線を画した、主にタイ産食材、中でも自家農園の食材を20%ほど使った、目にも美しい料理を提供している。
プルーの料理
PRUとは、自家農園の地名「Pru Jampa」と、Plant(植える)・Raise(育てる)・Understand(理解する)というレストランのモットーの頭文字をとった名前。28歳のシェフ、ジム・オフォーストは、リゾートから車で20分ほどの場所にある広大な農場に週に何度も足を運び、鶏や鴨の卵、野菜やエディブルフラワー、ハーブなどを収穫している。
「毎朝スタッフが収穫してくれるので、行かなくても良いのですが、やはり自分の目で農園を見ることで、新しいアイデアが生まれることも多いのです。子どもの頃から、農村地帯で育った私にとって、植物に触れるのは重要なことなのです」
ジム・オフォーストシェフ
実際に食事をして感じたのは、リアリティのある食事だ。オフォーストはオランダ人だが、外国人シェフが地元の食材を物珍しいものとして使うのではなく、しっかりとこの地に根を下ろした、食文化の理解に基づいた料理を作っていると感じた。今年2月に、トリサラのフロントで働くタイ人女性と結婚したのも、これからの彼のタイの文化への理解をより深くするのではないかと思う。