そんなラークが、アマングループの4つのリゾートの立ち上げに関わったのち、12年過ごしたアマンを離れ、自分が思い描く理想のリゾートを作りたいとオープンしたのが、タイ・プーケットのトリサラリゾートだ。
まるで自然の中に溶け込むような、完璧な静寂を生み出しているのは、元々この土地で育っていた植物たち。元の生態系を守るために、一旦開発をした後、元々あった木を植え直すという、手間のかかる作業をあえて行った。500室の大型リゾートが可能な敷地に、わずか39室だけという贅沢な作り。各ヴィラは独立していて、それぞれに玄関があり、全てにプライベートプールが付いている。
「好きなデザインにして良いと言われたので、最初に出資者に見取り図を提出したら、『で、ホテルはどこにあるんだ?』と聞かれました」と笑う。
ゆったりと幅広に作ったベッドの真正面には、海にそのままつながるように見えるインフィニティプール。隣り合ったヴィラ同士は、植物が自然の目隠しとなり、目の前の海は両端を岩場に守られた事実上のプライベートビーチのため、完全なプライバシーが守られている。水着を持ってきても、その必要性を忘れてしまいそうな、そんな場所だ。
室内にも、余計なものはない。バスアメニティも、いわゆるラグジュアリーなブランド物ではない。無駄なものを削ぎ落とした、社会生活の鎧を脱ぎ捨てる場所にしたい、そんな強い意志を感じる。その代わりにあるのは、人の温もりだ。朝食でも、部屋番号を聞かれず、名前で呼ばれる。
ラークは、「自分の家に招いたつもりでゲストを迎えています。超高級なエアビーアンドビー? そうかもしれませんね」と冗談交じりに話す。
分譲エリアを加えると133ベッドルームからなるリゾートには、450人のスタッフがいるのだと言う。また、エコリゾートの考えに基づき、室内には、シャワーキャップなどの一部のものを除いては、一切ビニール製の製品はない。置かれている虫除けは天然のハーブエキスを使ったもので、屋内屋外共に、殺虫剤などは一切使わないなど、時代を超えた確固たる信念に基づいて作られたことがわかる。
しかし、それでもリゾートは毎日進化し続けていないといけないのだ、とラークは言う。
「ふとしたきっかけで、今から20年前のリゾートのランキングを見てみましたが、今もトップを走り続けているリゾートはありません」と、時代の変化に適合する必要性を強調する。トリサラは今も昔と変わらず、プーケットを代表するリゾートだが、それでもなお、革新が必要というのは、なぜなのか。
写真左がアンソニー・ラーク氏(右はタイの著名レストラン『レドゥ』のシェフ)