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2017.11.29 11:30

「本業を生かす」社会貢献、吉本と国連が異色のタッグ



沖縄で開催された「島ぜんぶでおーきな祭」(写真=吉本興業)

国連広報センターより発案を受けた吉本は、この一年のあいだ、SDGsを広めるための様々な取り組みを行ってきた。その一部を挙げると、4月に沖縄で行われた「島ぜんぶでおーきな祭」では、スタンプラリーや写真展、10月には「朝日地球会議2017」にてSDGs大喜利を行っている。

そして10月13日はSDGs-1グランプリに続いて、SDGs新喜劇も上演された。これは6人いる新喜劇の座長のうち3人が出演する特別版である。どちらも吉本が企画・協力した京都国際映画祭の期間に一度だけ上演されたのだった。

笑えるコンテンツをつくり上げるために、吉本の芸人やスタッフたちはかなりの労力を費やしたはずだ。有料での公開とはいえ、一度だけの上演で大した利益が出ているとは考えにくい。

吉本がSDGsを国連広報センターと一緒に共に伝える活動をしていく中で、国連からそれなりの対価を得ているのではないか。これまで紹介してきたような力の入れようからすれば、そうであってもおかしくない。京都国際映画祭で大﨑社長に疑問をぶつけると、対価協力する理由として対価を得ているからではなく「企業がやるべきことやから」と答えた。

企業の社会的責任を果たすために、SDGsの普及に協力しているというのである。とはいえ吉本の場合は、一般的に行われているCSR活動のように、企業が社員にボランティアをすすめたり、環境保護団体に寄付をしたりすることとは一線を画している。吉本の代名詞であるお笑いと融合させ、オリジナルのコンテンツとして発信しているのだ。

吉本はSDGsを、本分であるお笑いと同等に扱っているのである。国連はSDGsの17の目標によって、すべての人がより良い生活を送れる世界を目指している。飢餓もなく差別も争いもなく、じゅうぶんに学ぶことができ、豊かな環境が守られた文明社会。そのような理想の世界を一言で表すとすれば、笑顔に満ちあふれた世界と呼ぶこともできるだろう。根本氏が紛争地域の仕事で感じたように、笑うということは人を寛容にし、幸せな気分にする。

実は吉本興業だけではなく、「本業を使って社会問題に切り込む」企業が少しずつ増えている。従来、SDGsのような取り組みを、「企業PR」として「わが社はこんなにいいことをしています」と宣伝に使う企業がほとんどだった。バブル期の企業の社会貢献活動がその典型で、業績が悪くなると真っ先に撤退した。消費者側も「どうせ宣伝だろう」と冷めた目で見るようになっていった。

しかし近年、社会課題の解決こそが消費者のニーズであり、市場が収縮している現在、そこに切り込まずして経済活動などできないという認識が広まりつつある。

つまり、企業が「社会貢献をやっています」と言っているとき、その本気度を見分けるには、「得意技である本業を生かしているかどうか」を見ればいいのだ。
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文=大迫知信

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