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2017.11.28

ウラジオストクで見かけた「もうひとつの北朝鮮人」

ウラジオストク国際空港で平壌便を待つ北朝鮮の労働者たち。彼らは日焼けして赤ら顔だが、同乗するビジネスマンらしき姿も。共通しているのは身なりが黒尽くめなこと。


市内の高等教育機関としては、沿海地方を代表する総合大学の極東連邦大学の他にウラジオストク国立経済サービス大学や国立海洋大学、芸術アカデミーなどがある。一般に経済サービス大学は初期のロシア語研修期間の学習の場となっており、研修後、極東連邦大学に移るケースが多い。今年同大学に留学する北朝鮮人の数は昨年の2倍増となっている。


極東連邦大学のキャンパス。2012年のAPECの会場になった。

現地の学生に北朝鮮留学生の印象を聞くと、以下のように素描してくれた。

「彼らの多くは10代で、授業中携帯でゲームをやっていたり、勉強をやる気があまり感じられない。アメリカ文化の象徴だからという理由でジーンズを履くのが禁じられているせいか、地味ないでたちで、いつも集団で行動しているので、キャンパスではよく目立つ。週に1回会合に主席しなければならないようで、集団で授業を休むことがある」

彼らは1980年代に日本に留学に来て「赤い貴族」と呼ばれた中国共産党幹部の子弟に近い存在なのかもしれない。当時、彼らが都内で車を乗り回し、六本木などの盛り場で遊び歩いていたのを見かけたものだが、権威主義体制の国にはいつの時代もこの種の甘やかされた特権階層の子弟がいるのだろう。年代は労働者たちと同じでも、彼らとは接点がまるでない。

今後、国際的な制裁がさらに強まったとしても「留学生を含め、極東ロシアに来る北朝鮮人は増えそうだ」と現地の関係者はいう。北朝鮮領事館が昨年4月、ナホトカからウラジオストクに移ってきたこともそうだが、以下のような理由が考えられるという。

1. ウラジオストクなど極東地域の建設作業員は慢性人不足で、外国人労働者に依存している。中央アジアの労働者に比べ、北朝鮮人は勤勉で腕もいいというのが地元での評判であること。

2. 北朝鮮人の海外渡航先として、最近では中国より極東ロシアの方がビザを取りやすい面がある。中国では脱北者問題もあり、貿易に従事するビジネスマンを除くと、徹底して管理された工場内での労働に従事するほかなく、北朝鮮労働者にとっても好ましい環境ではない。

3. ロシアからみると、北朝鮮は貧しい小国にすぎない。彼らは貴重な労働力ということもあり、差別されることは基本的にない。彼らにとっても、中国に比べ、居心地は悪くないはずだ。

こうした背景には、冷戦時代から続く旧社会主義圏における国際労働分業の名残もありそうだ。当時から多くのベトナム人や北朝鮮人がソ連邦や東欧諸国に派遣されており、1990年代にウラジオストクを訪れた際、彼らの姿を見かけたことを思い出す。いまではベトナム人の姿は見かけないが、お隣の国、北朝鮮人たちは当時もいまも極東ロシアの地で、ロシア人がやりたがらない底辺の仕事を担っているのだ。


今年4月市内に開業した北朝鮮系高級レストラン『高麗』。この町では数少ない北朝鮮の女性服務員がいて、一般の地元客も利用しているが、彼らの接待や会合に使われることも多い。

国際情勢がどれほど緊迫して見えても、北東アジアにおける各国の人々の動きはこのように多様である。今後、中国人やインド人の留学生を極東に呼び込む話もあるようだ。ウラジオストクほど今日の時代の混沌を映し出す都市はないと思われる。

写真=中村正人

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