ビジネス

2017.11.26

破壊される前に「自ら破壊する」 SOMPOのデジタル戦略

SOMPOホールディングス 楢﨑浩一 グループCDO 常務執行役員


マインドセットを託される一方、楢﨑は部下にデジタル変革を浸透させるには、「座学をしても仕方がない」と言う。

「まずはシリコンバレーのパッションに触れてもらうに尽きます。交渉にも部下を同席させます。意外に思われますが、シリコンバレーでの仕事はノウハウでうまくいくわけではありません。共通の仲間はいるか、信頼できるかといった、人間の結びつきを重視する世界なんです」 

そうして臨んだのがトロブとの交渉だった。楢﨑が「何度も挫けそうになりました」と振り返るように、トロブのCEO、スコット・ウォルチェックとの交渉は難航した。楢﨑にはシリコンバレーでのキャリアはあるが、それはあくまで前提。試されるのは人間力であり、人としての信用だ。同席者たちも、人間臭い交渉が展開される様子を目の当たりにした。

最終的に競合に勝ち抜き、提携に成功したトロブについて楢﨑が説明する。

「これは保険のタブーと言われるオンデマンド保険です。トロブは持ち物管理型アプリで、例えばマウンテンバイクで出かける場合、そのバイクの時価を算出して、使用する時間だけに損害保険をかけることができる。従来のように保険を長期間かけておくのではなく、かけたいときに保険をかけるのです」

リスクは可変であるという核心部分だけをテクノロジーを使ってビジネスモデルにしているのだ。

破壊なくして時代を創造することはできず、また、覚悟を決めたCEOなくしてCDOの活躍はない。櫻田はトロブについて社内でこういっているという。「これぞ我が社が目指すデジタル破壊の象徴だ」


ならさき・こういち◎1958年生まれ。81年、早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱商事に入社。2000年に退社後、アメリカで複数のICT系企業の設立や経営にかかわる。16年から現職。17年には常務執行役員に就任した。

SOMPOホールディングス◎安田火災海上と日産火災海上が合併して損保ジャパンができた後、合併や経営統合を経て、2016年、持株会社を現在の名前に改称。15年にワタミの介護会社を子会社化し、生損保以外にも介護・ヘルスケア事業も行っている。また、米Plug and Play 社とパートナー契約を締結した。

文=児玉 博 写真=Kay N

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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