彼らは「日本は佐賀を見ていた 佐賀は世界を見ていた」というパンチラインの「The SAGA Continues…」(ザ サガ コンティニューズ)を披露。この曲はミュージックビデオもつくられており、YouTubeで公開されるや、クールな映像に「佐賀が本気を出した」と言われている。明治維新150周年の2018年に向けて、幕末維新期における薩長土肥の肥前・佐賀藩の歴史を楽曲にしたのが、この「The SAGA Continues…」なのだ。
KEN THE 390らは、佐賀藩出身の大隈重信が創立した早稲田大学出身。そして、ヒップホップと地方を掛け合わせるユニークな挑戦を仕掛けたのが、ポニーキャニオンの村多正俊である。
九州版日刊スポーツにも取り上げられた。
ポニーキャニオンは、2015年から地域との「共業」を打ち出し、17年に「エリア・アライアンス部」という専門部署を発足させた。だが、昨今の「地方創生ブーム」と決定的に違うのは、「エリア・アライアンス部」を立ち上げた部長の村多正俊の意外な発見にある。
東京出身でブラックミュージックが好きな村多は、1990年にポニーキャニオンに入社した。「同期社員のなかで、僕だけ金沢営業所勤務となり、なんで自分だけ? と思いましたよ」と、彼は苦笑しながら振り返る。
北陸エリアといっても、石川、福井、富山の3県は仲が悪いと言われるほど、個性がまるで違う。地方の知られざる文化に触れるうちに、彼は本社勤務となり、今度はアーティストのツアーやプロモーションで、全国47都道府県を何度となく歩くようになった。
その時に彼は気づいたことがある。
「地元の本屋さんに立ち寄ると、自費出版の本が置いてある書店があります。誰も手をつけていないせいか、色が灼けて黄ばんだ本だったりしますが、その土地の歴史、文化、食、昔話など、地元の歴史家が紡いだ物語にあふれています。こうした自費出版の本が書店にある地域とない地域があります。自費出版の本がある地域は、掘り下げていくと、実は文化に対する意識が高いところが多いと気づいたのです」
町から町へと仕事で旅を続けながら、集めた自費出版の本は1000冊を超える蔵書となった。「ブックオフに持っていっても値段がつかないから売れないんですよね」と苦笑するが、そうした本にはネットで検索しても見つからない「ストーリー」が紡がれていた。
しかし、異変に気づいたのは、2003年から翌年頃だったと彼は記憶している。
「地方に行っても、自費出版の本を置いているような書店がなくなったのです。平成の大合併と呼ばれる市町村合併で人の流れが変わってしまい、この頃からシャッター商店街が目立ち始め、『地元の本屋さん』が姿を消しました」
いわゆる「地方消滅」が目に見える形で現れ始めたのだが、一方でもう一つ気づいたことがあったという。
「シャッター通りが増えているのに、人里離れた山の中に大勢の人が集まっている。イベントやフェスです。人が減っている一方で、不便な場所だろうが寂れた場所だろうが、イベントにはものすごい数の人が集まる。その姿を見て、我々がもつノウハウで地域に対して何かできるのではないかと思ったのです」
折しもCDやDVDの市場が縮小し始めていた。ポニーキャニオンはCDや DVD以外にも映画の配給やアリーナ級のライブを始め、数多くのイベントを手がけている。せっかく培ってきたエンタメの制作能力を使わない手はない。全国の地域と連携ができるのではないかと、村多は社内で手をあげた。
「トライしてみろ」。それが社長の答えだった。