転機となったのは、16年4月。タイやインドネシアの財閥から出資を受けているOmiseは、その傘下の携帯電話会社が展開するイーウォレットサービス(電子マネー決済システム)のトランザクション(データ処理数)に目をつけ、Omise Paymentの開発、成長へとつなげてきた。それがある着想へとつながる。
「相互運用できず、既存システムしか利用できないイーウォレットをつなげる共通のネットワークがあればいいのではないか」
その視点から生まれたのが、ブロックチェーンであらゆるデジタル価値の移動や交換ができるOmiseGOだ。同プロジェクトのアドバイザーには、イーサリアムを考案したヴィタリック・ブテリンが参画。アーキテクチャーを書いたのは、ビットコインの少数決済の課題を克服した「ライトニングネットワーク」開発者のジョセフ・ブーンだ。
彼らをはじめ、イーサリアム財団のコアメンバーを巻き込み、過去のICOにはない手法も行った。世界初となる、すべてのトークン参加者に対してのKYC(本人確認)登録の実行。トークンセールでは調達額に上限を設定。トークンの売り出しに参加したイーサリアム保有者に対して、同トークン全発行量の5%(70億円相当)を“AirDrop”と呼ばれる手法で無料配布した。そして、同財団が検証したコードも、すべて公開している。
「こうした行動はすべて“いいエコシステムをつくる”ことにつながります。ICOはバブルだ、と言われていますが、僕らがやらなければならないのは、このモメンタム(勢い)を数年間維持していくこと。それが、本当の意味で経済が変わるために必要だと思っていますから」
長谷川が見据えるのは、「ブロックチェーンを通じた価値交換」が、インターネットのように貧富の差に関係なく、誰もがアクセスできる技術になること。そして、多くの人々の生活に意味を持たせるための基盤になる未来だ。長谷川は取材翌日、イーサリアム財団とのエコシステムづくりに関する会議に出るため、日本を発ちメキシコに赴いた。
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長谷川 潤◎1999年、高校卒業後、単身アメリカへ渡る。2009年に「LIFEmee」というライフログサービスを立ち上げ、アメリカで開催された TechCrunch50に出場。2013年、タイでOmiseを創業。