「バドワイザー」などで知られるAB InBevは今年3月、テキサス州オースティンで開催された大型イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(South by Southwest)」で、火星でビールを造る計画を発表していた。フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地から発射される「スペースX CRS-13」ロケットで自社が所有する品種のビール大麦の種20粒をISSに送り、微小重力状態への適合性を調べる。
ビールの主な原料は、麦芽とホップ、水、酵母の4つ。そのうちの1つである麦芽は、大麦を発芽させたものだ。実験では重力の影響がほとんどない微小重力状態で大麦の種がどのように発芽し、環境にどのように反応するかを観察。AB InBevの研究者らは実験の結果を受けて、微小重力状態、あるいは宇宙空間での大麦の保管の可能性や、いずれ大規模な新種開発プログラムに実験結果を生かすことが可能かどうかを見極める。
気温がおよそマイナス125度から21度程度にまで変化する火星で、よく冷えたビール瓶の栓をポンと音を立てて開けるところを想像してみるのも楽しいかもしれない。だが、実験についてより「地に足の着いた」具体的な説明をするなら、同社は宇宙空間が麦の保管に適した気温と湿度であるか、発芽した麦が地球上と同じように発芽から2週間のうちに少なくとも15~25cm程度にまで生育するのかどうかについて、詳しく調べたい考えだ。
ISSに送られるビール大麦の種は約1か月間、軌道上にとどまり、地球に戻った後はコロラド州にあるAB InBevの研究施設で、分析が行われる。同社はISSの研究用設備を管理するNPO法人の宇宙科学振興センター(CASIS)、米国の国立研究所内に商業研究部門を設置している民間企業のスペース・タンゴ(Space Tango)とも提携している。