入賞はアステラス製薬、花王が受賞した。アステラス製薬は「社外取締役に対する敬意を持ってガバナンス運営にあたっている」点が評価された。
取締役会の設計というガバナンスの“ハード”に加え、役員の業績連動報酬や欧米流のKPI(重要業績評価指標)中期計画、DOE(自己資本配当率)を指標にした株主還元といった“ソフトウェア”についても仕組み化している。その結果が、特許が切れた医薬品(長期収載品)の売却、生産拠点の減少につながっている。
「この背景に、意思決定の速さ・巧みさに目的をおき、ガバナンスの実効性を担保しようとしていることがある」(伊藤)
花王は「制度としてガバナンスが浸透している」点が評価された。ガバナンスの“形”ではなく“質”を志向し、よりよい経営を目指している。企業価値と親和性の高い指標であるEVA(経済付加価値)を正式に導入し、27期連続増配をしている。
「澤田道隆社長の『次のステージは自分とはタイプの異なる人がCEOになるべきだ』という長期的思考でのサクセッションプランにも感銘を受けた」(伊藤)
HOYAも含めた3社に共通していたのは「コーポレート・ガバナンスという仕組みをうまく使って、自社をイノベーティブに改革し、健全な成長を実現している」点だという。
それがよくわかるのが同賞の選定方法だ。東証一部上場企業のうち、社外取締役3名以上の導入をはじめ、早くから取り組みに着手した224社を抽出。ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)、独立系運用会社・みさき投資による経営指標分析に基づき、上位40社を選抜。
1. 時価総額に基づく企業規模の大きさ 2. 特定の株主がいない、開かれた株主比率(30%以下) 3. 直近3年で、継続して高い利益を上げている安定性 4. 指名・報酬委員会の設置 5. ステークホルダーへの配慮、という観点から3社を選考した。そして経営者へのインタビューを経て、大賞が決まる。
日本取締役協会と交流がある英国取締役協会の会長であるバーバラ・ジャッジは、今回の表彰を巡り、「優良なコーポレート・ガバナンスの証のひとつに『透明性』がある。透明性があることで、社外の人々が『企業がどのように経営され、また、その企業の真の価値とは何か』を理解することができる。透明性に満足する株主を増やすことが企業の利益につながる」と指摘する。
また、審査委員長で元日本取引所グループCEO、現KKRジャパン会長の斉藤惇は次のように話している。
「コーポレートガバナンス・コードの適用から1年が経過し、現実にどう実行しているか、内容が充実しているか、を審査で重視した。伝統的な企業でも、形式を後追いするのではなく、それぞれに工夫を重ね、実質的であることが素晴らしい」
今後、ガバナンス改革は第2章がはじまると言われている。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の存在だ。環境、社会、そして投資家とのいい関係を築きながら、さらなる力強い「稼ぐ力」をつける必要があるからだ。日本企業のコーポレート・ガバナンスは今、再び、大きな転換点を迎えつつある。