どこの国にも属さない「世界市民」の素顔

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私は先日、グローバル求人情報掲載サイトを運営するジョバティカル(Jobbatical)のカロリ・ヒンドリクス最高経営責任者(CEO)と話した際、テリーザ・メイ英首相の「世界市民は、どの場所にも属さない市民」という有名な発言について議論した。

そこで、オランダの社会心理学者、ヘールト・ホフステードの有名な研究が頭に浮かんだ。世界各地の文化を研究したホフステードは、一つの国の中にも大きな隔たりがある一方、異なる国の間でも多くの共通点があることを発見した。

つまり、パリ市民は地方都市であるフランス北部のアラスや英東部リンカンシャーの市民よりも、ロンドンやエストニアの首都タリンの住民と似た考え方をする可能性が高いということだ。実際に、アラスは仏大統領選で極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペンに投票した住民の割合が高く、リンカンシャーは英国の欧州連合離脱(ブレグジット)への賛成票が多かった。

ジョバティカルが面白いのは、世界を股に掛け、自身を世界市民だと考える人のみを対象としている点だ。こうした人々は、自立性と機動性を何よりも(特に地元への愛着よりも)評価している印象があるが、果たしてそうなのか? まず「どこにも属さない市民」とはどういう人たちなのだろう。

「どこにも属さない市民」とは

英アングリア・ラスキン大学とデンマークのコペンハーゲン・ビジネススクールの研究者らは最近、オランダ・アムステルダムに在住・勤務する国際人を対象とした調査を発表した。回答者の出身国は14か国に上る。

同調査では、ホフステードが述べたとおり、こうした国際人は共通のアイデンティティーを持っているものの、それは出身国や文化的背景に関するものではなく、国際人としての仲間意識に基づいたものであることが示された。これは国際人が自分の出自を否定しているという意味ではない。回答者の大半は自国や民族の文化を維持していた。

しかし、こうした国家・民族的な背景は、アイデンティティーの全てではなく、一部のみを構成していた。実際、大半の回答者は、グローバルなアイデンティティーを勲章のように考えていた。調査対象者の多くは、相手が自分と同様の国際的な視点を持っていない限り、自国民にも滞在国の国民にも共感しづらいと明かした。

だが回答者らがアムステルダムを誇りに思っていないわけではない。全員が自らを「アムステルダム市民」と誇り、同市をふるさとのように考えていた。その意味では、回答者らは少し新しい意味での「地元民」だと言える。対象者の多くがオランダ人の配偶者や恋人を持ち、世界中に友人がいて、距離にも負けず友情を育んでいた。
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編集=遠藤宗生

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