究極のネット社会はユートピアか? 映画「ザ・サークル」が示す境界線

映画「ザ・サークル」に出演するエマ・ワトソン(Pascal Le Segretain / gettyimages)

ラスト近くに気になる映像が登場する。世界一のSNSを運営する「サークル」という企業の社旗がはためくシーンだ。

「サークル」という企業名から、「グーグル」を連想するのはたやすいことだろうと思うが、この「サークル」のロゴは、真円の90度方向から切れ込みを入れ、頭文字の「C」を表している。名前のような円環ではなく、ここに切断があるのが象徴的だ。しかも件の社旗は、白地にこの「C」を形取った赤い円が中央に置かれている。これは誰が見ても、日本の国旗に酷似しているのだ。

だからと言って、この作品が日本の社会を、あるいは日本の国をアナロジーしていると考えるのは、いささか早計だとは思う。しかし、日本ということではなく、SNSで個人情報が頻繁に行き交う世界に暮らす人間たちにとっては、なかなか考えるべき重要な問題をはらんだ作品だとは言える。

主人公は派遣として水道局のコールセンターで働く女性メイ(エマ・ワトソン)。友人の紹介でこの「サークル」で働くことになる。サークルは「トゥルーユー」というあらゆるサービスを含んだSNSを運営しており、そのシェアは世界で90%にまで達していた。

メイは水道局時代と同じく顧客対応の部署で働き始めるが、職場環境は雲泥の差。サークルの社屋には各種のアクティビティが揃っており、仕事以外での社員同士のコミュニケーションも推奨されていた。ただし、週末に行われるこれらの催しに参加しないと、たちまちどうして欠席したのかと問い質される。どこかの国の会社と少し似ているかもしれない。

サークルでは、「トゥルーユー」に続く新たなサービスが計画されており、それは「シーチェンジ」というもので、簡単に設置できるピンポン玉ほどの小型カメラを世界中のいたるところに置いて、誰もがいつでもどこにいても世界で何が起きているかを知ることができるというものだ。

これを社員にプレゼンする創業者イーモン・ベイリー(トム・ハンクス)の姿はスティーブ・ジョブズにそっくりで、サーフィンを例に出して「シーチェンジ」を説明するシーンはなかなか興味深い。

メイはあることがきっかけで、そのイーモンに見出され、「シーチェンジ」を使用したプロジェクトのモニターとして抜擢される。それは「シーチェンジ」を身につけて、24時間自分を公開するというもので、秘密がなくなることで罪の意識から解放されるとイーモンから説得される。

メイの生活は、トイレタイムの3分間以外、設置された「シーチェンジ」の前に24時間公開され、彼女の行動や発言も身につけたカメラを通じて世界中の人々が見守ることになり、メイは一躍ネット界のスターとなるのだった。

イーモンは、「シーチェンジ」によって誰もが平等に情報にアクセスできることになり、世界は「透明化」され、すべての人々がひとつにつながると主張するのだが、それはメイの生活を例にとってみても、これが広がっていき、多くの人間が「透明化」していけば、その果てには相互監視のような社会が待っていることも想像できる。
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文=稲垣伸寿

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