世界に広がる「MeToo」、映画から考える性暴力への「あるべき救済の姿」とは

『告発の行方』でアカデミー主演女優賞を獲得したジョディ・フォスター(Photo by Barry King / WireImage)

ハリウッドをゆるがしたハーヴェイ・ワインスタイン氏の性暴力告発は各方面に飛び火し、収まる気配がない。

10月末にはフランス各地で反セクハラデモが展開され、アメリカでは著名アーティストを含む7000人が業界の権力者のセクハラを非難する公開書簡を発表。11月に入ってからは、ペルーでミス・ペルー審査会の出場者たちが壇上から女性への暴力に抗議し、欧州議会ではセクハラ、レイプ被害を受けたことのある30人以上の女性議員が「Me Too」のプラカードを掲げ、性暴力の撲滅を訴えた。

一方日本では、フリージャーナリストの伊藤詩織さんが、自らの受けた性暴力被害を訴える会見を開いてから半年が経った。知られているように、相手の元TBSワシントン支局長、山口敬之氏は、本庁の刑事部長命令で逮捕状の執行が突然取り下げられ、嫌疑不十分として不起訴処分となっている。伊藤さんは、10月に出版された手記及び外国特派員協会での会見で、一連の経緯から警察及び司法組織のあり方に疑問を投げかけ、性暴力被害者の救済制度の整備を訴えている。

レイプを受けたとする被害者が名前と顔を世間に晒して闘うのには、非常に高いハードルがある。勇気を振り絞って告発しても、「彼女にも落ち度はあったのでは?」「もしかして合意だったのでは?」といったセカンドレイプに遭うのが常である。

1988年のアメリカ映画『告発の行方』(ジョナサン・カプラン監督)は、レイプ被害者が遭遇するこうした事後のさまざまな問題、そして当事者の絶望を正面から描いた作品として当時話題となった。ヒロイン、サラを演じたジョディ・フォスターはアカデミー主演女優賞、ゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得。ちなみにサラ役は、検事補役を演じたケリー・マクギリスを含め、何人もの女優がオファーを辞退しているほど、過酷な役柄であった。

物語は夜更けの郊外、一軒のバーの外の公衆電話で「女性がレイプされている!」と通報する若い青年の姿から始まる。そこに、店から飛び出してきたパニック状態の若い女。引き裂かれた服の胸元を押さえながら彼女は、通りすがりの車を呼び止め病院に駆け込む。

だが、全身の打撲や擦り傷に加え精神的に多大なダメージを負っているレイプ被害者に対し、医師や看護師の態度は事務的で決して暖かいとは言えない。事件の担当となった地方検事補キャサリンは、後日サラを伴って実況見分に当たり、一旦は3人の加害者逮捕にこぎつけるが、彼らは保釈金を積んで自由の身に。被告側の弁護士がインタビューに「レイプじゃない。相手が挑発した。和姦だ」と答えているのを、テレビのニュースで目撃したサラは、ショックを受ける。

ウェイトレスとして働き教養もない低所得者のサラと、上質なコートを颯爽と着こなしたいかにもエリートなキャサリンは好対照だ。階層も文化圏も異なる2人の女のコミュニケーションは、最初ぎくしゃくとして噛み合わない。「服装が”その気”にさせたかも」「飲酒、マリファナ、何度中絶したかもこれから聞かれるのよ」と厳しい言葉を投げるキャサリンに、サラは反発する。
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文=大野左紀子

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