大塚さんはスイスの香水会社やファッション業界など、ラグジュアリー層に向けたブランドのマーケティングマネージャーとして、ヨーロッパはもちろんニューヨークやシンガポール、香港などで活躍されてきた。その手腕を買われ、CIVBにヘッドハントされたわけだ。
オファーがあった時、大塚さんには、「ボルドーといえば高級ワイン」というイメージがあったそうだ。ハイブランドに従事し続けてきた自身のキャリアもあり、ワイン業界は全く未知の世界ながらも即OKしたという。
しかし、カントリーマネージャー就任後、CIVBから任されたのは、「バリューボルドー」という、低価格帯ワイン重視のマーケティングだった。
5大シャトーやペトリュスといった超高級ワインのイメージが強いボルドーだが、実はその生産量の7割を占めるのは、フランスでの販売価格が3〜15ユーロのあいだにおさまる低価格ワインなのだ。日本に輸入されると、それが1000〜4000円以内で市場に出回ることになる。それらのワインを「バリューボルドー」ということで売り出しているのだ。
この価格帯のワインが、ボルドー=高級ワインという既存のイメージに押され、売り上げが伸びていないという。それはそうだ。高級ワインの代名詞とも言えるボルドーワインが、近所のスーパーで1000円台で売っていても、知らない人はなかなか怖くて手が伸びない。それだったら、安くて品質もいいと評判のチリワインを選ぶのも当然の成り行きだ。
「高級ワイン」というこれまでのイメージから脱却し、日本でのボルドーワイン復興の主軸を担う「バリューボルドー」。そのマーケティングを、高級ブランドのマーケティングを得意とし、ワインも素人、日本社会にも久しくコミットしていない大塚さんに託したというのは、まさにCIVBの大英断だといえる。
大塚さんは、ボルドーワインが昔から持つ「高級ワイン」という固定観念を覆すのではなく、ボルドーワインのイメージ拡大を目指している。
CIVBには、5大シャトーから低価格帯のワインを生産する小さなシャトーまで、およそ6300ものワイナリーが加盟している。これだけの数があれば、それぞれの財力もターゲットも全く違うし、もちろんブランディング戦略も足並みが揃わない。それがこれまでボルドーワインのマーケティングが結果を残せない要因となっていた。それを一手に取り仕切るのが大塚さんの仕事だ。
「高級ワインが注目されがちですが、安くてもボルドーワインは品質がいいんです。高いものから安いものまで、ボルドーワインをひとつの家族として考えてもらい、様々な特徴を受け入れて、味わってほしい。安くても、ちゃんとボルドーなんだよ、って」という大塚さん。
「高級ワイン」と共に、ボルドーといえば「重い赤」というイメージも未だに根強い。このイメージもまた改善していく必要があると大塚さんは言う。ボルドーにはスパークリングや白、甘口赤ワインのクレレや貴腐ワインなど、豊富なラインナップが揃っている。中でもまずは白ワインと、軽めの赤を広めていくそうだ。そのようなタイプのワインだったら、日本の食卓にも合わせやすいだろう。
スーパーでバリューボルドーのワインを手に取ると、もしかしたらニューワールドのワインよりは200円、300円ほど高くつくかもしれない。しかし、そのわずかな差で本物のボルドーワインを食卓に迎えられるのだ。ぜひ一度、それぞれの舌で試してみる価値はあるのではないか。