ビジネス

2017.12.18

「注文」という概念をなくしたい 東大発ベンチャーのトップが描く未来像

漆原 茂(左)、出雲 充(右)

エンタープライズIT(大企業向けIT)分野でユーザー企業の支援に特化したITコンサルティング会社を運営するウルシステムズの漆原茂氏と、植物と動物の性質と59種の栄養素をもつハイブリッドな生物「ミドリムシ」を使って地球の食料、環境、エネルギー問題の解決をめざすユーグレナの出雲充氏。

東大発ベンチャーのトップである両氏に、ITやバイオの分野で予想される未来や理想の未来について語っていただいた。(第1回第2回


漆原:エンジニアとして思うのは、これからの未来はものすごくおもしろいということ。金融系はブロックチェーンを含めて大きく変わってくる。決済システムは近いうちに24時間になる。法定通貨だっていずれは電子化される。車は自動運転になる。農業も医療も今までIT化されてこなかったところがIT化される。テクノロジーのエンジニアが活躍できる場がどんどん増えてくると思います。

たとえば、現金が不要になる。決済もITでできるようになる。融資も担保ではなく普段の行動を見るようになる。購買体験も変わる。お店はショールームのようになる。商品にクレジットカードを「ピッ」とかざすと、家に帰る時には商品が届く。広告もパーソナライズされて本当に欲しいと思っているものを提案するようになる。そんなワクワクする未来がもうじきやってくるでしょう。

一方で、クリエイティビティ、既成概念にとらわれないブレイクスルー、人間と人間とのやりとりや関わり合いがより重要になってくると思います。

出雲:同じようなことがヘルスケアとメディカルの分野でも絶対に起きますよね。現在製薬企業は、服用する人の生活や遺伝子を知らないで、低分子タンパクの医薬品を作って売っている。患者は、その薬が自分に効くか効かないかわからず、メーカーで選んで服用している。

アメリカでヒトゲノム計画がスタートしたときには、一人の体質や遺伝子を調べるのに、13年間で約3000億円かかりました。それでは無理ですが、今は1週間で10万円と手頃になってきました。遺伝子がわかれば、その人に合った薬や食べ物を自信を持って勧められます。

昔から期待されていたことに科学は応えられなかったけれど、今は技術の制約がなくなってきた。ITの分野とバイオの分野で革命が起こると思っています。

バイオの分野でも何もかもが変わると思う。食べ物も薬も本当にその人のことがわかって、その人が健康になると確信できるエビデンスがあって、人々の暮らしが豊かになるという実現したかった社会が目の前に来ていて、それをみんなでやっていこうという感じですね。

行動データがたくさんとれるようになると、薬や食べ物の「注文」という考えはなくなると思います。たとえば遺伝子から見てミドリムシが合っている、ミドリムシで健康になれるという人には注文がなくても届けたいし、逆に合っていない人から注文があったら、断りたい。

漆原:断る!? 本当に(笑)?

出雲:たとえば漆原さんがミドリムシを飲んでも効き目がなくて、リコピンを摂取すると健康になるなら、ミドリムシの注文をもらったとしてもリコピンジュースを送りたい。

漆原:無駄な注文がなくなりますね。

出雲:はい。趣味の世界以外は、薬をハイエンドとする食べ物に関しては「注文」という概念はなくなると思う。それを、自分が生きているうちに実現したいですね。


漆原 茂◎ウルシステムズ株式会社 代表取締役社長。1987年に東京大学を卒業。1989年からスタンフォード大学研究所客員研究員。2000年に戦略的ITのコンサルティング企業、ウルシステムズを設立し、代表取締役社長に就任。2006年ジャスダックにIPO。シリコンバレーの最新動向に精通し、先端テクノロジーとベンチャーをこよなく愛するエンジニア。

出雲 充◎株式会社ユーグレナ 代表取締役社長。1980年広島県生まれ。東京大学に入学した98年、バングラデシュを訪れ深刻な貧困に衝撃を受ける。2002年東京三菱銀行に入行。05年株式会社ユーグレナを設立し、東大発バイオベンチャーとして注目を集める。同年世界初のミドリムシ屋外大量培養に成功、ミドリムシ食品を事業化し、化粧品やバイオ燃料など幅広い分野での展開を目指す。

インタビュー=谷本有香 構成=星野陽子 写真=藤井さおり

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