トランプの税制改革が生む悲惨な未来

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支出を増やし、雇用を創出する税制改革案の策定は、それほど難しいものではない。次の2つの基準を満たせば良いだけだ。

1. 減税分を相殺するために政府の支出を削減(あるいは他の領域で増税)してはいけない。
2. 減税は、実際に金を使う人の収入増加につながらなければいけない。

この2つが税制改革の明確な指針となる。例えば、減税は最貧困層を対象に行うこと。貧しい人々は収入が上がればその分を必ず消費するため、確実な雇用拡大につながる。

その証拠として2015年のデータを見てみると、全所得者層のうち収入の多い上位2割は所得の78%を支出していたが、残りの所得者8割の支出は、所得の106%だった。支出が収入を上回っているのは、借金や政府補助金の利用が理由だ。

これを、低所得層は「怠け者の浪費家」で、高所得層は「立派な倹約家」だというモラルの問題に曲解しないこと。米労働省労働統計局(BLS)の消費者支出調査によると、総支出に占める食費・住居費・光熱費・医療費の割合は、所得が低い8割が73%だったのに対し、最富裕層は52%だった。

逆に、最富裕層の2割がその他の8割と比べて多くを費やす分野には、酒類、家具、娯楽、衣類、乗用車の購入がある。収入を酒やステーキ、高級な靴や車に費やしているのは貧困層ではなく、富裕層の方だ。

しかし私は、モラル問題の矛先を富裕層に向けたいわけではない。私が言いたいのは、『クリスマス・キャロル』に登場するけちなスクルージよりも、薄給でこき使われるボブ・クラチットの方が善良な人間だということではなく、その逆を示す証拠はないということだ。

では、トランプの税制改革案が実現すれば、ボブ・クラチットにはどんな良いことがあるのか? 良いことなど全くない。むしろ、今よりも高い税金を払うことになる。この改革により最も大きく減税されるのは法人税だ。この恩恵を受けるのは誰だろう?

米紙タイムによると、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の経済顧問を務めた米ブルッキングス研究所のウィリアム・ゲイル上級研究員は、この法案が「年収50万~数百万ドル(約5600万~数億円)の人には、確実に大きな減税になる」と指摘している。

ゲイルは「多くの要素が作用するため、低所得者層への影響を断言することは難しい。増税となるかもしれないし、減税になる人もいる」としながらも、「この税制改革法案は、(トランプ大統領の)支持者層を形成する裕福な献金者たちに非常に良い結果をもたらすだろう」と語った。
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編集=遠藤宗生

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