野村HDグループの改革を支える「苦い記憶」と「危機意識」

野村ホールディングス グループCEO 永井浩二 

眼下に株式などのトレーディングフロアを臨む一室。ピンストライプのスーツにクレリックシャツを纏って現れた野村ホールディングスグループCEO、永井浩二はその長身を折るように椅子に座った。


「会社を根底から創りかえる─」

増資インサイダー事件を受け、2012年、グループCEOに就任したときに永井が口にした言葉だった。

「グループの中核、野村證券の未来をどのように描かれますか?」

この質問に永井が即座に口にしたのが「それが一番悩ましい」という言葉だった。

その原因は“フィンテック革命”だ。自身は以前、フィンテックは金融の1つのツールと思っていたという。ところが、それを知れば知るほど既存の金融の概念を完全に塗り替えてしまうのかもしれないと永井はその凄まじさに慄然とする。

「証券を含めた金融そのものを根底からひっくり返してしまうかもしれない……。それをチャンスと捉える人たちもいるでしょうが、我々にとってはチャンスであると同時にリスクでもあるんです」

その理由は明確だ。既存のトッププレーヤーは、新しくて大きなイノベーションが起きたときには一夜にして敗者になってしまうということが起こりうるからだ。危機意識をもった永井は、これまでの野村にはなかった斬新な手立てを講じる。

トップの自分にしかこうしたことはできないと、15年、金融イノベーション推進支援室を野村ホールディングスに誕生させる。その組織の人材を、永井は公募で集めた。人材に事欠くことのない野村ではあったが、「当社が築き上げて来たビジネスモデルを、壊すようなことができる人材が必要だと思った」と言う。

永井が公募で集めた人間に求めたのは1つ。金融周辺で起きているテクノロジー革命について月に一回、昼食を取りながら永井に細大漏らさず報告すること。つまり、永井は金融を根底から覆すかもしれない革命の目と耳を求めたわけだ。

永井の耳に入れられたものの中からは、野村が投資をするような案件も生まれ始めている。こうして、永井はフィンテック革命の現場に目を置き、耳を置いたのだ。
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文=児玉 博 写真=佐藤裕信

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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