イーロン・マスクの元部下が語る「テスラのハード・ワーキング」

ドライブモード共同創業者の上田北斗


入山:ニュースに出ているようなテスラの主だった仕事のすべてに関わったということですね。ではちょっとミーハーな質問ですが、イーロン・マスクはどんな人でしたか?

上田:すぐクビにするという意味では、すごく怖い人ですね。週一でミーティングをしていましたが、そのあと人が消えるということもしょっちゅうでした。

入山:なんでもテスラ独自の言葉があるのだとか?

上田:突然のクビという意味で、「ミッド・ナイト・トレイン」という言葉が社内で飛び交ったこともありました。ヘマをした人が、会議をした夜中の列車で連れ去られて消えると、「最近アイツ見ないね」「ミッド・ナイト・トレインされたんだ!」って。

イーロンはそういう意味では怖い人ですが、必要な恐怖だったと思っています。要するに彼は、ある分野に特化した人じゃなければ雇わないんです。だからイーロンより知識がない人をクビにして、さらに知識がある人を雇うんです。

入山:彼はめちゃくちゃ勉強していると聞いたことがあります。

上田:その通りです。機械のことなら細部まで知っている。だから、適当なことを言うとすぐに指摘されて、「ミッド・ナイト・トレイン」。結果として、特定のジャンルを極めた人か、僕のように何も知らないけどそのぶん死に物狂いでやり遂げる人が生き延びるんです。

入山:なるほど。では、上田さんはイーロンとの仲は良かったんですか?

上田:プライベートな会話はほとんどなかったですね。正直、ミーティングで報告したらなるべく早めに帰るようにしていました。僕の知る限り、イーロンは社内ではほとんど誰とも仲良くしていませんでしたね。

入山:孤高の経営者だった。

上田:そうですね。近づきがたい雰囲気でした。



会場:強力なトップダウン式だというのはわかりましたが、現場の権限はどこまで与えられたんですか?

上田:初期と今では違うかもしれないけど、僕がいた頃には2万ドルの機械が必要だと伝えると、「俺に尋ねる時間がもったいないから早くやれ」と突き返されました。一人一人を専門家として雇っているから、「お前が良いと思うなら早くやれ」という考え方。

イーロンは怖いけど、理不尽ではないと思っています。「そのやり方は違う」とちゃんと反論すれば納得して応えてくれます。

入山:彼はどんなときに怒るんですか?

上田:モデルSのプロトタイプをシリコンバレーからLAにいるイーロンに送ったのですが、12時間後に電話で「飛行機に乗って今すぐ来い」と呼ばれて。スペースXの横にある空港のポート横にプロトタイプがあって、その横にマスクがいるのですが、飛行機の中からでも彼が怒っているのがわかるんです。

出会ったら2時間くらい怒られて、「すぐに直せ」と飛行機で送り返されて。怒られるためだけに飛行機に乗ったのはそれが初めてでしたね(笑)。

彼は、怒るときはとにかく怒るんです。ボディのラインが気に入らなかったらしくて、客に受け渡す1カ月前に金型から直さなきゃならないのに「絶対やれ」と。

入山:日本の前例主義の逆ですね。日本では前例にならっているかを気にすることが多いですが、テスラでは前と同じことをやったら怒られるんですね。

(第2回に続く)

編集=フォーブス ジャパン編集部

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