お金の「カッコいい」使い方と「カッコ悪い」使い方

シャッター商店街の一角でひっそりと閉店したまるきん製菓が復活! もう一度、中高生の集うオアシスに。


ぐるなびの創業者・滝久雄さんもそんなひとりだ。滝さんの『貢献する気持ち』という本には、貢献活動には「愛」から発するものと「憐れみ」から発するものの両方があり、憐れみの感情には自尊心や虚栄心とのすり替えが起こるのに対し、愛には本能的な与える喜びがあると書かれている。

実際に滝さんは若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」を13年から続けており、留学生向け奨学金にも取り組んでいて、先日もお茶の水女子大学に10億円を寄付した。大学内には4階建ての「国際交流・留学生プラザ」が開設されるという。

連載第1回にも書いたけれど、お金を持っている人は、誰かの天使になれる。お金を使うことによって、誰かの人生を変えたり、誰かを幸せにしたりできるのだ。しかも天使というのは、誰かに感謝されるわけではなく、上から様子を見てフフフと微笑むだけ。「見返りは期待しない」というのが鉄則である。なかなか難しいことだけど、それをこんなふうに諭してくれた人がいた。

写真家のハービー・山口さんは、とにかくいつも素晴らしいシーンに出合う。一度なんて代々木体育館でボーイ・ジョージのライブを撮影していて、彼のトイレについていったら、おばさんみたいな外国人男性が入ってきたので立ち小便をしていた子どもたちがギョッとして全員振り向いた、という奇跡的な写真も撮っている。

僕もライカを持ち歩き、いいシーンに出合ったらすぐに撮ろうと待ち構えているのだが、なかなか出合えない。それである日、「どうすればこんないい場面に出合えるんですか」と聞いてみた。ハービーさんは「人間力を鍛えればいいんです」とだけ答える。どうやって鍛えるものなのか、続けて尋ねると、こう言われた。

「例えば朝起きたときに、自分の家の前の落ち葉を掃くとします。このときに隣の家の前の落ち葉も掃く。でも、隣の家人が気がついて申し訳ないなと思わせたらいけない。いわゆる“見返りを期待しない貢献”をしたときに、人間力は鍛えられるんです」

僕はすっかり感激した。例えば投資家は当然リターンを期待して投資をするわけだが、リターンを期待しない投資家がいたら、もっと社会は良くなるのではないだろうか。資産家や投資家が見返りを求めずにエンジェルサロンを開き、そこに夢を持つ若者が集ってプレゼンなんてしたら、すごく愉快な未来が開けそうだ。そういうバーを、高野さん、一緒にやりませんか?

故郷・天草での新しい試み

天草に「まるきん製菓」という店がある。たい焼き、たこ焼き、ソフトクリームなどを売っていて、子どものころからよく通った。しかし今年5月、「機械が古くなり、餡を捏ねる体力もなくなってきた」という理由により、惜しまれながら閉店してしまった。これは一大事である。地元の中高生のオアシスのような場所が閉じることによって、シャッター商店街からさらに若者が消えていくという現象が起きるからだ。

僕は店主に連絡して、僕が店のオーナーとなるから、地元の若者に手伝ってもらってまるきん製菓を続けましょう、と提案した。いまはどうすれば若者たちがこの店の価値をあらためて見出すのか、その企画を思案中。見返りを期待しない貢献は本当にワクワクするものだ。エンジェルとはつまり、滝さんがいうところの「貢献心は本能」を知っている人だとあらためて感じている。

有意義なお金の使い方を妄想する連載「小山薫堂の妄想浪費」
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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