真の信頼を測る方法 相手の前でナイフを抜けるか

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私はあるイベントに講演者として参加した。自分の講演を終えて、次のスピーカーが「信頼」について講演をしていたときのこと。聴衆の中にいた男性が、ナイフを取り出した。

私はその男性を知っていた。実のところ、彼を招待したのは私だった。元情報分析官の彼は、今は軍用品をアジア各国の政府に販売している。

彼は気が狂ったわけではなかった。ナイフを取り出したのは、スピーカーに堪忍袋の緒を切らしたからではなく、信頼についての持論を示すためだった。彼はこう説明した。

「私はこのナイフを持ち歩いている。フルーツの皮をむいて食べるためにだ。私がこのナイフを取り出すのを見て警戒心を持ったかどうかで、あなたの私に対する信頼度が分かる」

とても納得がいった。私はこれまで、イベントの最中にナイフを取り出す人に遭遇したことはなかったが、男性を知っていたために冷静さを完全に維持できた。

これは非常に重要な点だ。私はコンサルタントとして、誰かに対して「ナイフを抜く」ことをしなければいけない時がしばしばある。顧客に対し、相手が下した問題の診断が間違っていると説得すること。それが私のコンサルタントとしての価値だ。

たとえば、数か月、場合によっては数年にわたり、製造効率の低さに悩んできた顧客から、効率を上げるよう依頼を受ける。そこで私は顧客に、製造効率には何ら問題はなく、問題なのは不可能な要求を製造部門に突き付けている営業部門にあることを伝えなければならない。

あるいは、不振が続く海外子会社を視察して、閉鎖に向けたビジネスプランの正当性を認定してほしいと言う顧客がいる。行ってみると、その子会社を閉鎖すべきではなく、いくつかの変更を加えるだけで成長機会につなげられることを伝えなければいけないと分かる。

このような内容を伝えるのは難しい。よい知らせであるものの、顧客は不意を突かれてしまうし、解決法の裏にあるロジックは複雑でなじみがないものであることが多い。

さらに難しい状況も時には発生する。あるとき、CEOに対して「解決の依頼を受けたこれらの問題ですが、すべてに共通する根源があります。それはあなたです」と言わなければいけないことがあった。(この案件は、幸いハッピーエンドとなった)

伝えなければならない点が複雑で困難になればなるほど、事実に基づいて論理的かつ冷静に伝えることが難しくなり、いかに相手と信頼関係が築けているかがより重要になる。会議中にナイフを取り出しても、全員が冷静さを保てるような状態まで持っていければ、自分が成功したことが分かるだろう。

編集=遠藤宗生

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