サイバーダイン山海が落合陽一に直伝 大学発ベンチャーで社会を動かす「秘訣」

落合陽一 ピクシーダストテクノロジーズCEO(左)と山海嘉之 CYBERDYNE株式会社CEO


落合:もう1つの理由は、山海先生がアカデミックに身を置きながら、会社を経営することで、「エコシステム」をうまく生み出している、日本の数少ない存在だからです。

山海:エコシステムを構想した上で、実際に稼働するようにすることは、産学連携を進めるには、本当に大事です。特に、人材育成の面では必須ですね。

大学は人材育成の組織であるにもかかわらず、「時代にあった人材育成」を行おうとしても、文科省から期限付きの公募案件が公表されてから計画を練り始め、半年議論して、次は文科省に申請して、なんてことはよくあります。社会では1週間あればベンチャーだってできる。社会の動きが早くなっていて、時代にあった人材育成は、大学だけでは難しいですね。

落合:僕もその問題を解決すべく、ラボと自分の会社を共同研究で繋いで、研究と人材育成のエコシステムをつくろうと動き出しています。自分で実際に社会実装に向けて研究しようと思ったら、大学で申請する公的予算だけでは足りないし、学生をOJTで育てようと思ったら、もっとフットワークの軽い組織でないといけない。

だから、徐々に学生を自分の会社に出入りさせながら、教えています。研究しながら給与を払える学生を増やしていかないとちゃんとした社会実装に向けての研究は難しい。これはまさに、山海先生が、筑波大学の学生をCYBERDYNEで受け入れていたのと、同じスタイルです。


落合陽一 ピクシーダストテクノロジーズCEO

山海:実際、企業が学生を育てる大学外の「私塾」としても機能しています。CYBERDYNEに来れば、生活を維持するためのバイトもできる。しかも、彼らが研究者として伸びていくための研究開発に関わるバイトですからね。エコシステムというからには、そういう選択肢を用意しておいてあげないと。

落合:今の時代、日本では学生にとっても、研究者にとっても、「研究して生きていく」という意味なら、大学よりも、そう言った研究開発ベンチャーは、明らかにユートピアなんですよね。ラボの教授が起業家なら、それが実現できる。

実は、最近東大の助教の星先生を自社に引き入れたんですが、論文プロジェクトにも会社のプロジェクトにも参加していて本来の「研究」スタイルになっているような気がします。

山海:当然、そうなると思いますよ。産学連携の議論になると、若い人についての議論になりがちですが、人材としてある程度“熟している人”も、働きながら博士課程に籍を置くことをもっと推進してもいいと思います。そこには、自分の専門軸をしっかりと体系化するといった醍醐味や、国際的なメリットがあるんです。

実は、CYBERDYNEには、「博士号取得者、または5年以内に取得予定の者」という役員規定があるんです。ギャグではないかと言われそうですが。上場の時に、どうしても定款から外せと言われたので、結局、役員規定に入れました(笑)。

落合:そもそも僕がキャリアとして、大学教員になり、ラボをはじめた理由は、「時代を象徴するような研究所」がつくりたかったからなんです。博士の頃にマイクロソフトリサーチで働いていたんですが、本当にすごいところでした。

実際に製品を生み出しているから、そこには大量の研究者がいて、彼らは民間企業にいながら、どんどん研究ができている。一方で、学生が大学に戻るシーズンになると極端に人がいなくなる。つまりは、大学が民間の研究所に若い学生を送り出して、企業は働きながら、研究できる贅沢な環境を提供しているということなんです。

山海:まさに理想的なエコシステムですね。それに、企業だからこそできる人材育成のスタイルや人の集め方というものがあります。僕はかつて、300ほどの機関投資家に会うために世界を巡りましたが、その際に「出資をしてください」とは一言もいいませんでした。

自分の事業と開拓しようとしている分野をプレゼンした後に、「皆さんが支援したい時は出資するだけですが、私は研究開発支援と人材育成をすることもできます。もし、支援したいと思う会社があれば、紹介してください」と伝えていました。すると、シリコンバレーやスイスのベンチャー企業も、わざわざつくばにまで来て、ピッチしていくんです。

落合:確かに僕のラボも最近はようやく海外から人が来るようになりましたね。

山海:いい感じですね。そう言えば、自社技術を説明にきた方々も、数週間すると、「転職していいでしょうか」とアピールがあったりするから、面白いですよ(笑)。
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文=高野明男 写真=藤井さおり

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