「自殺願望の正体」をAIで解明、命を救うイノベーションの最前線

Snopek Nadia / Shutterstock.com


研究者たちは、自殺を企てた、もしくは自殺を真剣に考えたことがあると明かした18〜30歳の青年17名、そして同じ年齢帯の自殺を全く考えたことがない青年17人を研究対象にした。そして対象者に、ポジティブな言葉10個、ネガティブな言葉10個、自殺や死と関連した単語10個をそれぞれ示し、「磁気共鳴機能画像法(fMRI)」で脳を撮影した。次いで、撮影されたfMRI画像を人工知能が学習。自殺願望を持つ人々の特徴を割り出すことに成功したという。

研究結果によると、自殺しようと考えている人々が「死」という言葉を見ると、脳の中で「恥ずしかさ」を司る部位が他の研究対象者よりも反応したそうだ。同様に「苦境」という言葉を見ると「悲しみ」と関連付けられた部位が強く反応。一方、「怒り」と関連する領域は特段の反応を示さなかった。

研究者たちは進んで、「死・残酷・トラブル・気楽・幸せ・賞賛」などの6つの単語を提示した際、脳内5か所で、自殺危険群と一般人の差が際立っていたとしている。そこで人工知能は、6つの単語と5カ所の脳領域の反応を組み合わせた30種類のパターンを解析。自殺の予兆がある人を選別する方法を自ら見つけ出した。

研究関係者のひとりは「自殺を考えている人をAIで判別できれば、医療陣が事前に支援することができる。今後、分析する人員を増やす計画」としている。これら研究結果については、米国立衛生研究所(NIH)の関係者らも「今後、さまざまな精神疾患を診断するツールになる可能性が大きい」と期待を寄せた。

なお今年6月には、テキサス大学の研究チームが、AIによるMRI画像分析手法を使用し、うつ病患者を75%の確率で判別することに成功したとも発表している。加えて今年3月には、米フロリダ州立大学研究チームが、200万人の診療データをAIに学習させ、自殺を企てようとする人々の2年前の兆候を、80%の精度で判別することに成功したとした。

現在、フェイスブックやインスタグラムなどSNSを運営する企業でも、映像や音声、テキストをAIで解析し、自殺予備群を予測する研究を行っている。目に見えないとされてきた自殺願望の正体が、AIによって解明される日は訪れるのだろうか。命を救うイノベーションの発展に期待すると同時に、自殺そのものに対する認識の変化やプライバシー保護の充実にも目を向けていく必要がありそうだ。

文=河鐘基

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事