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共振の経営を実践するために、ウィークリーの会議や若手との飲み会、ブログでの発信など、多種多様なコミュニケーションを重ねた。

なかでも苦心したのは、ユニ・チャームウェイの作成だ。ユニ・チャームウェイは、現場や経営層に散在する暗黙知を形式知化して、さらに組織知として浸透させるツールとして活用されている。ただ、暗黙知を形式知にするのは一筋縄でいかない。

高原は、そのためにとにかくメモを多用する。記録のために取るのではない。人の話を聞いて大事なところを書き留めたり、浮かんだアイデアを文字にするという行為を通して、頭を整理しているのだ。「書くことは考えること」。年間に使うB4判のメモ帳は年10冊に及ぶ。その厚みからは、経営者としての苦悩がうかがい知れる。

「データよりも人の思い」

事業戦略を転換させ、苦労しつつもマネジメント手法を刷新したことで、ユニ・チャームは急成長を遂げた。社長就任時に比べて売上高は4倍、時価総額は7倍になり、アジアでは不動の地位を築いた。父とは違う高原のリーダーシップが組織を飛躍させたのだ。

高原が経営で大事にしているものがもうひとつある。それはデータやセオリーでは測れない人の感覚や思いだ。今回、減収になった要因をこう分析する。

「経営の現地化が遅れていました。今回、伸び悩んだのは日本人社長と現地ローカル幹部社員のコミュニケーションに課題がある国でした。海外市場における商品の本当の評価は、その国の空気を吸い、物を食して育った人の肌感覚でないとわからない部分があります。現地の優秀なマーケッターやリサーチャーは育ってきましたが、経営者はこれからで、まだ追いついていなかった」

ユニ・チャームは反転に向けてこれから勝ちパターンをバージョンアップさせていく。そこでもカギを握るのは、データには表れない「人の思い」になるだろう。

紙おむつ市場では、低体重児用を開発して投入した。高齢出産の増加とともに低体重児も増えている。とはいえ、現時点で市場規模は小さい。データで考えれば、明らかに時期尚早だ。しかし、長期で見れば勝算はある。

「私たちの生業は商品で社会に寄り添うこと。最初に産着として使ってくれたお母さんや赤ちゃんがユニ・チャームの企業価値を評価してもらえれば、ずっとわが社の商品を使ってもらえるかもしれない。ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の最大化を狙います」

高原は「変化は合わせるものではなく、つくるもの」と、引き続き能動的に変化を起こしていくことを示唆している。

今年は年1回の社長賞の選考基準に新たな評価軸を加えた。これまでは“1-10-100”をモットーに掲げる高原らしく、アイデア段階でなく、すでに実行に移され、売り上げでインパクトを残したプロジェクトを高く評価してきた。しかし、今年度は、売り上げは小さいが、ミレニアル世代が生み出した「新商品提案」を高く評価した。

今年社長賞の大賞を獲ったのは、まだ売り上げがほとんど立っていない高齢犬用のベッドだ。犬も寝たきりになると褥瘡(床ずれ)ができて死んでいく。ペットとの共生社会を謳うなら、もっと長生きできるようにケアをするべきだ。そう訴える若い開発者の声が胸に響いた。

衝撃を受けたのは社員の側も同じだったろう。これまでのクライテリアから外れた異例の選考。「ミューテーション(突然変異)を起こせ」というトップのメッセージは十分に伝わった。


たかはら・たかひさ◎1961年、愛媛県生まれ。86年成城大学経済学部卒業、三和銀行入行。91年ユニ・チャーム入社。2000年常務取締役経営戦略担当。01年代表取締役社長。04年より現職。

文=村上 敬 写真=佐藤裕信

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