ユニ・チャームを率いる高原豪久は毎年末、「来年の漢字」を社員に向けて発表している。一年を振り返って世相を表す清水寺の漢字と違い、来年への思いを込めて一字を選ぶ。
2017年の漢字は「突」──。
今年は、これまでの勝ちパターンを突き破る。そんな決意がにじむ一字だ。
ユニ・チャームは世界80カ国以上に進出。ベビー用紙おむつや生理用品市場でアジア1位、世界3位と存在感を放っているが、その背景には高原が確立したユニ・チャーム流の勝ちパターンがあった。
成長市場に対しては、「小さく生んで、大きく育てる」。紙おむつは一人当たりの国内総生産(GDP)が年3000ドルを超えると一気に普及するが、その分岐点を迎える前の段階から、経営者、財務管理のコントローラー、マーケッターの3人でチームを組ませて現地に派遣。アパートやホテルの一室を拠点にして、事前に国内で分析してきたリサーチ結果を検証していく。
市場開拓の方法論は他社と大きく変わらない。ユニ・チャームらしさが出るのは、この先だ。高原はこう語る。
「“1─10─100”が私のモットー。計画を立てる労力が1だとすると、計画の実行には10倍、成功させるまでには100倍のエネルギーがかかります。海外市場の開拓でいえば、事業をスタートして3年以内に単年度黒字化するまでが10、10年以内に初期投資を含めてすべて回収するまでに100の努力がいる。そこまでやり続けてきたからこそ海外で成功できた」
日本でうまくいったやり方を海外に移植するのもユニ・チャーム流だ。成長市場への参入では、地場の既存企業を買収するケースもある。ただ、活用するのはブランドと流通資産のみ。商品や生産、マーケティングはすべてユニ・チャームのやり方に刷新する。「各国の市場は違いより共通する部分が大きく、共通部分に最適化したやり方で進めたほうが成功しやすい」という考えからだ。
共通化するのは事業の進め方だけではない。ユニ・チャームでは、共有すべき価値観や行動原則を「ユニ・チャームウェイ」として一冊のバインダーにまとめ、全社員に携行させている。内容は各国の言語に翻訳され、海外のメンバーも携行して共通の価値観のもとで仕事を進める。
ユニ・チャームインドネシアの社員と共に
ユニ・チャームウェイは、どの言語版もページ数が同じだ。言語が異なれば文章の長さが変わり、ページ数もズレてしまうものだが、「それではツールとして使えない。『〇ページに書いてあるように』といったとき、全員が同じ内容をパッと見られるようにしている」とこだわりを見せる。
価値観をそろえて、組織としての意思決定や実行のスピードを上げていく。このやり方を貫くことでユニ・チャームは各国の市場で成功を収めてきた。高原が社長に就任した2001年当時、売り上げに占める海外の比率は1割に過ぎなかった。しかし、いまでは約6割になっている。勝ちパターンがうまく機能したからこその結果だ。
ただ、一度確立した勝ちパターンが永遠に機能し続けるとは限らない。16年12月期、ユニ・チャームは経常利益と当期純利益が過去最高となったものの、売上高と営業利益は減少した。減収は社長就任1年目の02年3月期以降、15年ぶりだ(決算期変更の14年12月期除く)。
強烈な成功体験を持つ企業は、それに縛られて成長の歩みを止めてしまうことがある。いわゆる“成功の復讐”だ。
わが社も、いつしか成功に復讐されていたのではないか。グローバル企業であり続けるためには、変化を恐れてはいけないのではないか。そうした危機感が、「突」の一字になって表れたのではないだろうか。