ビジネス

2017.11.07

ホンダのオープンイノベーションを舵とる、シリコンバレーの水先案内人

杉本直樹 ホンダイノベーションズCEO


それ以外にも、現地の起業家やベンチャー投資家から「この技術をどう思うか」と聞かれれば、社内の適任者を見つけ出して、忌憚のない意見を集め、相手方と見解を共有した。ホンダに中途入社し、社内人脈もなく、シリコンバレーで新規にVCネットワークの開拓を重ねた杉本にとって、これらの歩みは“終わりのないドラゴンクエスト”のようだったという。

「例えば、番人に会って、社内のある部署のドアの開く鍵をもらう。その鍵で中に入ると、そこに電池に詳しい仙人がいた。その仙人と話すと、ポリマー材料の仙人を連れてきてくれたので、プラスチック新素材を開発したベンチャーのことを思い出し、説明してみると、仙人が喜んで見に行きたいと言い、2人で一緒に旅へ出た──。そんな冒険の繰り返しです」

ホンダが最初の法人「ホンダ・リサーチ・インスティチュートUSA」をシリコンバレーに設立したのは00年。日本の基礎研究部門による、コンピューターサイエンス研究を目的に始まった。

しかし、いざ活動を始めてみると、面白いベンチャー企業が沢山あることに気付き、ベンチャーとの協業を開始した。05年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が立ち上がり、それから6年後、同CVCチームは、北米向けの商品開発を手がける「ホンダR&Dアメリカズ」のシリコンバレーオフィス、HSVLへと組織変更していく。

その後、17年4月にHSVLは本田技術研究所直接出資の米国法人「ホンダイノベーションズ」として独立。より外部とのコラボレーションを加速させていく。現在、杉本は、ホンダ本体の戦略会議へ出席することもあり、イノベーションを起こすための水先案内人として重要な役割を担う。

そんな杉本がいまもこだわり続けているのは、「『こんなことができるのか』という驚きを社内に持ち込むこと」だという。だからこそ、イノベーションの度合いを示す評価指標の単位を「WOW」にしている。ホンダ社内の各部門責任者に試作機やデモを見せ、10段階で採点してもらう。

「いかに短い時間で高い『WOW』を実現できるかが、我々の活動で常に意識していたところです。ホンダの社員の起業家精神を掻き立てるような『WOW』を、これからも失敗を恐れずに見つけ出していきたい」


すぎもと・なおき◎リクルート、UCバークレーMBAを経て、2005年にホンダ入社。11年よりHSVLのシニア・プログラムディレクターを務める。17年4月、ホンダイノベーションズのCEOに就任。本田技術研究所の執行役員も兼務。

文=土橋克寿 写真=ラミン・ラヒミアン

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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