10月中旬、「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット2017」のイベント交流ラウンジで、医師で起業家の方に声を掛けられ、おまけに厚労省のブースに連れて行かれそうになった。
筆者は、医療系ベンチャー振興推進会議の座長として、このイベントを含む厚労省が“変わった”と言われる動きをサポートしている。昨年7月には厚労大臣の「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」としての提言をまとめた。それを知らない知人の率直な言動に、お題目でなくベンチャー振興が歩み始めたと感じることができた。
では、なぜ変わったのか? その背景ではなにが起きているのだろうか。
日本の研究から果実がとれない理由
薬の世界の売上トップ10に占めるベンチャー起源の品目は、2001年は1つだったが、2014年は6つに増えている。また、米国FDAが1998〜2007年に承認した252の新薬は、米国企業発が117、日本企業発が23を数えるが、そのうち大学やベンチャー企業発の薬が米国は72と6割に上る一方、日本はわずか2割程度しかない。
大企業が自ら新薬を生めない傾向はさらに強まり続けており、大学など研究機関やベンチャー企業に将来がかかっている。
では日本の大学・研究機関がダメかというとそうではない。むしろ、その逆だ。日本のライフサイエンスの研究は世界トップレベルで、ノーベル賞を獲得するなどすごい技術があまたある。また、日本の大学の理科系研究者は半数以上がライフサイエンス分野だ。メディアではITなどが脚光を浴びることもあるが、この分野にもっと期待してよいはずだ。
だが日本の研究機関からの製品化・事業化の例は少ない。それはなぜか? 前述のベンチャーサミットで、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の米田悦啓理事長は、「死の谷」問題を指摘する。研究室から臨床試験を経て製品化されるには、知財、薬事、戦略、プロジェクトマネジメント、資金調達など壁が多い。米国のエコシステムでは、ベンチャー企業がこれら壁の間「死の谷」を越えるブリッジの役割をしているが、日本はそこが弱いのだ。
メガファーマと呼ばれる世界の大手製薬会社の動きはアグレッシブだ。2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士のイベルメクチンは海外のメガファーマが製品化して大きな利益を上げたが、これは例外ではない。海外の大手各社は日本を含むグローバル市場から技術と研究者をソーシングしている。
あるところまでは囲い込まずほぼ無条件でベンチャー企業を支援する「Precompetition」といったエコシステム的発想をもっているメガファーマもある。例えば、ジョンソン・アンド・ジョンソンは、社員の20%の時間はベンチャーエコシステム醸成に使いなさいと唱えているくらいだ。
そして、メガファーマが投資しているベンチャー企業のマッピングをみると、その件数と金額はもちろん、デジタルヘルスなど多様な分野への”種まき”投資が目を引く。ベンチャー企業との連携をはじめとするオープンイノベーションに大企業がこぞって、かつ懸命に取り組んでいるのだ。日本企業も手は打っているが、押されている感があるのは否めない。